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還流独歩

ろうそくの輝き 2009.12.26

長い冬の夜に灯すろうそくは、とても暖かく感じられる。白熱電球や蛍光灯の光を見ても何とも思わないが、ろうそくの揺れる炎を見ると心が落ち着くというのは私だけではないだろう。火というのは人を何かの郷愁に誘う力があるようだ。それと同時に、ろうそくの背後にある「陰」が織りなすおぼろげな雰囲気も、心を鎮める効果があるように思う。

かつて日本にも提灯(ちょうちん)や行灯(あんどん)といった、ほのかな光の文化があった。でも、戦後の高度経済成長とともに、日本は家の中も外も異常に明るくなってしまった。部屋の中が暗いことは陰気臭いと思われる向きもあったから、暗さを排除し、できるだけ明るくすることが生活の質の向上であり、それが豊さの象徴のように捉えられてきたのだろう。

これまで温熱環境も光環境も、均一にすることだけが求められてきたけれど、日本はもう少し、いろんなところが少し暗くなっても良いのではないかと思う。これは建築に携わる人だけでなく、一般の人たちも感じていることではないだろうか。ろうそくの小さな炎を見ると、その陰には物質的な豊かさとは違う何か大切なものが隠されている気がするのである。

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