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還流独歩

飛んだ移動 2010.01.31

今日の環流独歩は、これまでの中で最長文です。

朝9時に泳ぎに行く。帰って来てから、移動の準備をしようと思いつつ、掃除を始める。普段こそ、こまめに掃除をするべきなのに、しばらく家を空ける前というのは、なぜか掃除をしないといけない焦燥感に苛(さいな)まれるのである。掃除機をかけて、床を水拭きし、お手洗いを奇麗にした。ついでに階段室も掃除機をかけて、踏み面も軽く拭いたら昼になった。

そこから荷物をまとめる。1時間半もあればだいたい終わるので、軽く食事をとる。冷蔵庫の中も空にしないといけないので、余っているご飯に水を入れ、一旦おかゆ状態にした。別の鍋で少しだけ残っていたハムで炒めて、そこにおかゆ状態のご飯を投入。水を足して、沸騰しかかったところに溶き卵を4つ分入れた(笑)。あとネギも最後に追加。出発前なのに少し余裕。

しかし、この余裕があとで全くなくなるとは、この時点ではまったく予想もしていなかった・・・。実は飛行機に乗り遅れそうになったのである。結果的には乗れたのだが、以下はその顛末記である。

荷物は、ほぼ詰め込んだので、15時半に空き瓶を捨てに行く(笑)。といって2瓶しかないのだが、何となく捨てに行ってすっきりしないと気が済まないのだ。そのあと、流しの掃除。キッチンと言った方が響きが良いですね(苦笑)。カルキで白くなった水切り部分を入念に磨いた。念のため冷蔵庫を見直したら牛乳が余っていた。そのままにしておいたら大変なことになるところだった(苦笑)。

16時にはほぼ片付け終わって、持って帰る書類の確認をする。スーツケースを一旦閉めて、持ち上げてみたら、それほど重くもない。おそらく30kgくらいだろうか。いつだったか37kgというときがあって、このときは本当に重かった。持ち上げることはできるが、持ち運ぶのがとても辛かった。成田空港で受取ったら、スーツケースの車輪が曲がっていて、修理に出したことは以前書いた。

メールを何通か送ったあと、スーツケースを一旦共用玄関まで下し、ゴミを捨てて部屋に戻ると、鉢植えの受け皿から水が溢れている。出発前は、いつも水をあげすぎないように注意しているのに、またやってしまった。バスの時間まであと15分もないのに、再び床拭き(涙)。窓や電気、暖房などの確認を終えて、鍵を閉めた。すぐ近くのバス停に向かうと、バスは定刻に来た。

ケルン中央駅のルフトハンザのカウンターで搭乗手続きをする。フランクフルトまではICE新幹線に連結されているルフトハンザの「エアレイル」で移動だ。図々しくも、プレミアムエコノミーへの変更をお願いしていたのだが、ルフトハンザのカウンターでは詳細はわからないというので、フランクフルトに着いて、荷物を預けるときに再度訊くことにする。

ここで極めて重大なことが判明する。時速300kmで走る新幹線専用の高速路線が不通になっているというのだ。ルフトハンザのお姉さんは、「今日はボン経由よ」とあっさり言う。「いや、ボン経由って、空港までは2時間半はかかるよ」と言うと、「大丈夫よ。ICEだし、ボン以外は止まらないから、20時前には着くと思うわ」。私は内心、「ついにこの日が来たか」と思った。

最近のDB/ドイツ鉄道は、確かに時間に正確に走るようにはなったが、そうでないときもある。ルフトハンザの車両を連結しているICEは、時間には正確だというけれど、何か事故があって、1時間遅れとかになることも十分にあり得る話だ。しかも普通はドイツ鉄道のウェブサイトで、定刻通りに運行しているかどうか確認するのだが、今日に限って忘れてしまっていた。

「これは間に合わない可能性が高いな」というのが私の本心だった。だいたい、ルフトハンザのカウンターにいるお姉さんが、ドイツ鉄道の運行のことなど詳しく知っているわけではない。むしろ、私の方が知っている方だ。ともかく、電車はボン経由で空港に向かうというし、搭乗手続きは済ませてしまったから、あとは空港に着いてから考えるしかない。

ホームで待っていると、フランクフルト空港経由ミュンヘン行きのICが入って来た。動揺している私は、重い荷物と一緒に、この電車に乗ってしまったのだが、同じホームの反対側にたくさんの人が群がっている。いや、この電車じゃない、と気がついて慌てて降りたら、乗るべきはずのICEが入って来た。

21号車のエアレイルに荷物を載せて、ようやく席に着くと車内アナウンスがあった。「トロイスドルフの線路脇で火災が発生し、大掛かりな消防活動のため、現在、この区間はすべて不通になっています。そのため、この電車はボン経由でフランクフルト空港へ向かいます。空港への到着時刻は20:21の予定です」。東京行きの出発は20:45。まさに「だめだこりゃ」の気分になった。

気持ちを落ち着けるまでには、しばらく時間がかかった。搭乗手続きが済んでいるとはいえ、私の到着を待ってくれるだろうか。長距離新幹線駅からカウンターまでは、どんなに急いでも5分はかかる。荷物を預けないといけないので、カウンターに行かなければならないのだが、出発15分前の20:30に着くって、どんな感じなのかな(苦笑)。

荷物を整理する係のエアレイル乗務員のお兄さんは、いろいろ訊いてくる客に、下手くそなドイツ語で、「空港には90分遅れで到着ということしかわからないよ」と答えている。そして、「俺の話も聞いてくれ。俺は何時の新幹線でケルンに戻れるかわからない。しかも明日は朝5時から仕事なんだ。残業して早朝から仕事。残業手当は出るのか? ああ、今日はなんて不運なんだ」。

お兄さんの愚痴は続く。不運なのはこっちだが、何だか憎めない。「なんだ、水が見えて来たぞ。川か?」。「ライン川に決まっているだろ」。「え、これがライン川か。この区間を走るのは初めてだから、知らないんだ」。「じゃあ、オランダの辺りかもね。逆走してロッテルダムに来たんじゃないの」。「いやボーデン湖かもしれないぞ」。下らない会話が続く。

私は通路を挟んで反対側に座っていた男性に「あなたもフランクフルトから出発ですよね」と訊くと、ヨハネスブルグに向かうのだが、もう間に合わないらしい。ただ、1時間半後にルフトハンザも出ているので、それには乗れるのではないかと言う。さっぱりとした身なりで、少し長めの髪をかきあげたその男性と話は続く。

彼は日本にも4回ほど来たことがあるそうだ。ヨハネスブルクに事務所があり、今回は、ブエノスアイレスを経由して、5週間後にケルンに戻り、2週間だけ滞在したら、また出かけるらしい。旅慣れた男性は、「君の飛行機はNH(全日空)?」。「ええそうです」。「ゲートオープンしてるよ(笑)」。携帯電話で調べてくれたのはいいが、私はまだ電車の中。しかも到着時間は20:21から変わらない。

「搭乗手続きは終わってるのであれば、待っててくれると思うよ」。男性のことばを信じるとするか。ライン川沿いの線路は曲がりくねっているので、速度が出せないから、気持ちが焦っている私には実に鬱陶しい区間だ。しかも工事のため停車したりして、時間だけは過ぎて行く。フランクフルト空港が近づいて来た。男性と名刺を交換する。ヨハネスブルグでギャラリーを開いている人だった。

新幹線は20:20に空港駅に着いた。なぜかとっても正確(苦笑)。「じゃ、お互いの検討を祈る」と言って男性と別れ、私は降ろした荷物を滑らせながら、「出発まであと20分しかないよ」とつぶやくと、ホームにいた若い男女に聞こえたらしく、「しっかりね」と声をかけられた。荷物があるので、それほどは早くは走れないが、それでも人並みをかき分けて全日空のカウンターに向かった。

着いたけど・・・誰もいない(苦笑)。と思ったら、トランシーバを持った女性が奥から現れて、別の男性もカウンターへ回ってくれた。間に合った。でも荷物だけは明日の便になってしまうかもしれないと言われた。仕方ないだろう。お礼を言ってカウンターを離れようとしたら、カートにたくさんの荷物を載せた男性が後ろからやってきた。私が最後ではないのか! だったら急ぐこともないか(笑)。

新幹線で隣り合わせになった男性がルフトハンザのカウンターにいたので、「間に合ったよ」と軽く伝えて、手荷物検査場へ向かう。結構、混んでいるから、時間がかかったが、私が搭乗せずに出発するわけもなく、またもう一人の男性がいるので、気持ちを落ち着けながら搭乗口へ向かった。着いてみると、まだ乗り込んでいない人が結構いたので拍子抜けした。焦ることなかったじゃん。

希望していたプレミアムエコノミーの席に着き、私のスーツケースは飛行機に乗ったのかなと思っていたら、「本日はお客様の荷物の積込みに時間がかかり、出発が遅れたことをお詫び申し上げます」という機内アナウンスがあった(苦笑)。それは私と、もう一人遅れて来た男性のせいに違いない。出発は、結局45分近く遅れた。

ところで、プレミアムエコノミーに乗るのは始めてである。エコノミーとの違いは、席の幅と前後が多少広くてゆったりしていることと、シート電源が付いていることだろうか。あと、テーブルの表面が少し高級感のある木目調だった(笑)。シートの倒れ方は、エコノミーより大きいけれど、特筆すべきことではないし、食事はエコノミーと同じだった。

それから、今日の便には中国の人がやけに多い。隣りの若い男女も中国語を話しているので、なぜ東京行きに乗っているのかを訊いてみたら、ダブリンからフランクフルト行きの便が2時間半も遅れて到着し、北京行きに乗り継げなかったので、代替措置として成田経由で帰るのだという。出発が遅れたのは、私だけのせいではなかったようだ。

しばらくしてから、操縦席の機長から挨拶があった。第一声目は、今日は荷物の積込みに時間を要し、出発がかなり遅れたお詫びであった。それはもういい(笑)。「それから搭乗の皆様に、重ねてお詫びしなければならないことがございます。本日、当機の航路を変更しなければなりません」。アナウンスは続いた。

「通常、飛行している区間に、ジェット燃料が凍結してしまう恐れのある極めて低温の寒気があり、それを避けるために、航路を南側に変更しなければならず、成田への到着がさらに遅れる見通しです」。周りの人が「へえ〜」と妙に感心している。私も同じだ。ジェット燃料が凍結するって、氷点下何度なのだろう。機長の非常に丁寧なお詫びと説明に誰一人として文句を言う人はいなかった。

飛行機での東行きは西行きよりも辛いと言われているようだが、今回は、飛行機に間に合わないかもしれないという危機感の疲れもあってか、小瓶のワインを2本飲んだあとは、ほとんど寝て過ごした。気がついたら、到着の3時間前くらいになっていた。そのあと出された着陸前の軽食にも、ほとんど手をつけられなかった。私にとっては珍しいことだ。

飛行機は1時間以上遅れて雨の成田空港に着いた。が、悪天候の影響で、離発着が定刻通りに進まず、また駐機場が別の出発機で塞がっているため、着陸してから15分くらい待たされた。このときも機長は、丁寧過ぎるくらいのアナウンスをした。こんなに腰の低い機長は始めてだ(笑)。 

入国審査を済ませて、荷物を取りに行くと、私のスーツケースは、3番目くらいに出て来た。早い! 良く見ると、ファーストクラスのタグが付いている(苦笑)。私の荷物を迅速かつ間違いなく飛行機に乗せるための配慮だったのだろう。ファーストクラスに乗っていないのに、変な優越感から、上野に付くまで、ずっと付けっ放しにしておいた。誰も見ていないのに(笑)。

30分待ちで乗った京成スカイライナーは、人身事故のため、15分遅れて上野に着いた。今回は遅れてばかりだが、移動ももう少しで終わる。だが、さらに遅れる事件が茅場町の駅で発生した。切符を出そうとしたら・・・ない(汗)。ジーンズのポケットも、いつも使っている橙色のリュックサックの中にもない。多分、上野駅の改札に入ったときに取り忘れたのだろう。

最近はPASMOを使うことが多いから、改札機には一回だけさわっただけで通ってしまうことに慣れてしまっているせいもあるかもしれない。どこを探しても出てこないので、南口の改札窓口へ行こうとしたら、ついさっきまで開いていたのに切符を探している間に閉まってしまった。ちょうど20時でしまるのか! 仕方なくホームを端から端まで歩いて、別の改札の窓口へ行った。

とても不親切そうな感じの若い駅員に事情を話したら、冷たい口調で、「今度から気をつけて下さいね」といって、清算券を渡してくれた。やった〜(笑)。160円だから、別にもう一回払っても構わないんだけど、自分の注意力の散漫さに嫌気がさしていたので、駅員さんの対応には救われた。感謝である。

こうして、20時間近い移動が終わった。夜には雨が雪に変わった。通りを歩く女性たちが、雪が激しく降る中で歓声を上げている。今年はどこに行っても雪である。

超長文におつきあい頂き、有難うございました。
 
加筆訂正:2010年2月9日

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