薪ストーブの威力 2010.02.20
すわ製作所が設計した、茨城県日立市の個人住宅を訪問する機会を頂いた。建築主には、1年半ほど前に一度だけお会いしている。上野から常磐線の普通電車で向かった。特急利用も考えたけれど、電車の中は作業するのに好都合なので、少し時間がかかっても、ゆっくり行くことにした。
上野駅から常磐線に乗るのは久しぶりである。すぐに作業をしようと思い、PCを出したまでは良かったが、今日は座席暖房が付いていないにもかかわらず、とても気持ちの良い睡魔が襲って来たので、そのまま少し眠ってしまった。しばらくして目が覚めたが、乗換駅の水戸までは、まだまだ距離がある。電車が土浦を越えたら、私がほとんど知らない駅ばかりだった。
水戸で乗換えて、さらに30分ほど乗る。上野からは3時間の旅である。日立駅に着いて降りようと思ったら、携帯電話が鳴った。今日、お招き頂いた建築主が、駅まで迎えに来てくれているという。恐縮しながら改札を抜けると、お久しぶりにお会いするのに、すぐ顔がわかった。ご自宅までは車で10分弱だろうか。私の近況を話している間に新居に着いた。
この物件は設計の段階から、ほんの少しだけ関わっていたし、竣工写真も見ていたから、家の形状も間取りなども、ほとんど頭に入っている。でも、図面や写真で見るのとは、実際に訪問するのではもちろん違う。早速、家の中を案内して頂く。玄関を入るとダイニングになっていて、キッチンからは家の中がほぼ見渡せるつくりだ。
RC造の壁に白い時計がかかっており、床に置かれた観葉植物の緑がコンクリート壁に彩りを添えている。反対側の壁に掛かっている、お子さんの書き初めもいい感じだ。我々が来るというので、朝から片付けをしたとは仰っているが、普段からとても奇麗に住まわれている雰囲気が伝わってくる。参考にさせてもらおうと、写真をたくさん撮らせてもらった。
すわ製作所の眞田さんが家族と一緒にやって来た。家の中は一気に賑やかになった。段々と暑く感じられるようになったのは、人が増えたからというより、リビングの脇にある薪ストーブの威力だ。炎という熱源から発せられた温熱放射が家中に行き渡っているのがわかる。しかも、この薪ストーブでピザも焼けるというので、早速ご馳走になる。美味しい。
私は石炭ストーブを知っている世代だが、当時は建物の断熱が悪かったから、ストーブに面する側は暑いのに、背中側は寒く感じることが多かった記憶がある。でも、断熱が行き届いている建物だと、薪ストーブをほんの少し付けるだけで、家の中は一気に暖まるほどの力強い暖房である。しかもこのお宅では薪ストーブの後ろにコンクリート壁があるので、その蓄熱効果も大きい。
断熱性と気密性が高い建物を暖房する場合、大掛かりな設備を用いなくても、均一で快適な温熱環境が得られる場合が多い。しかも、蓄熱の効果を活かすことができれば、短時間の間欠暖房するのではなく、大きな温度変化を必要としない微弱な連続暖房が相応しいと考える。その一例がコンクリート床の蓄熱を利用した床暖房だろう。低温であっても、面温源は心地良い温熱環境をつくり出してくれる。
それに対し、薪ストーブはまったく逆である。高温源であり、点温源だ。日本には囲炉裏や火鉢などの採暖の文化がある。ストーブがその部類に入るかどうかは別として、薪ストーブと楽しく付き合っているこの建築主の方を見たら、断熱性を高めた住宅の暖房方法としても決して悪くないのではないかと思える。
薪の入手方法や維持管理を考えると大変だけれど、火のある空間は生活を豊かにさせてくれる。寒くなったら火を起こして、室内を一気に暖めて、適温になったら程よく調整して室温を保ったり、あるいは緩やかに低下させる。何でも機会仕掛けに頼っている私たちの生活には、ちょっと面倒にも思える作業があっても良いのかもしれない。
いまは安全が最優先される傾向があるけれど、火のある生活は、日々の暮らしに彩りを添えてくれることを気がつかせてくれる貴重な訪問になった。建築主のご家族に感謝致します。