客の前で「くそ」とつぶやく女 2010.02.24
1999年の10月から半年ほど、私はドイツのカッセルという街に住んでいた。そこの市営交通局で通勤定期を発行してもらいに行ったときのことである。そのとき私は、学割と一般の人の中間くらいの割引制度を受けられる証明書を持っていた。確か最初の月は問題なく割引の定期を発行してもらえたのだが、翌月行くと、窓口の若い女性は、その割引は適応できないと言う。持っている定期を見せても納得しない。
私は引き下がることなく、先月も問題なく発行してもらえたし、割引してもらえるのは間違いないはずだというようなことを言った。彼女は一度、割引できないと言った手前、無理だと何度も言い張りながら、仕方なさそうな態度で、手元の手引書のようなものを広げ始めた。そして何ページかめくったとき、彼女の手が止まり、中身を少し読み始めたかと思うと、左を向いて「くそっ」と小さくつぶやいたのである。私は目の前の光景に驚きつつも平静を装った。定期は買えた。
ちなみに、「くそ」というのはドイツ語で「シャイセ」という。意味はまさに日本語と同じ「糞」であり、使い方もほぼ一緒だ。このシャイセという言葉は、ドイツ人が不満を表す際に頻繁に使う言葉でありながら、その一方で、最も嫌われている表現でもある。男性でも女性でも使うし、どちらかというと「ちぇっ」という舌打ちみたいなものだ。でも日本の女性が平気に人前で「くそっ」など言うことはほとんどないだろうし、ましてや客の前で言うことなど考えられないはずだ。
ドイツの生活を続けていると、精神的に強くなるというか、むしろあまり動じなくなってしまうような気がするのである。
加筆訂正:2010年6月10日(木)