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還流独歩

麦酒と日本酒の夕べ 2010.03.01

某企業の方から夕食のお誘いを受けた。多忙にも関わらず、しかも週明けの月曜なのに本当に有難いことである。この会社の方とは、すでに3回ほど飲む機会をつくって頂いている。都内某所からタクシーで新橋に向かう。夕方6時前から新橋で世界のビールを飲んだ。といっても、私は日本の地ビールをいくつか飲んでみた。

食事もビールも、ほどよく満たされたあと、美味しい日本酒を嗜(たしな)みに行くことになる。その企業の方も私も、普段は日本酒を飲むことはないが、そのお店には全国の希有な美味しい日本酒が取り揃えてあるというので、新橋から歩いて二次会に向かう。場所的には、ほとんど霞ヶ関である。通りには和風レストランと書かれているが、実際は全然違うらしい。

階段を下りて行くと、そこは紛れもなく昭和時代だった。内装も、白く光る蛍光灯の薄暗い照明も、壁に掲げられた手書きの品書きも、蝶ネクタイをした男性店員も、すべてが昭和のままのように見える。神田や新橋にも同じような大衆居酒屋はたくさんあるが、ここはそれらとは、また違った雰囲気を醸し出している。

特別な注文がない限り、今日のお勧めの日本酒が出てくる。最初に頂いたお酒は、東京の純米酒だった。香りもふくよかで、ほんの少し甘い感じがするものの、喉越しに残る嫌みもなく、とてもおいしいお酒である。酒の肴も、これまた日本酒に合うものばかりで、素朴ながら、私が普段口にできないような一品を堪能することができた。

それにしても、日本食というのは本当に素晴らしいと思う。私が敢えて言うほどのことではないが、多彩な食材に始まって、その多様な調理方法は特筆すべきものだ。手の込んだ味付けがある一方で、素朴さと繊細さも兼ね備えており、見た目の彩りや細やかさなどを見ると、おそらく世界中で、これほどまでに深みのある食文化はないとさえ感じる。

そして箸の文化も重要だ。つまり、つまんで食べるということ自体が、日本食を支えていると言っても良いかもしれない。少量のものを、あれこれつまんで食べるというのは非常に上品だ。それに対し、食べ物をフォークで刺してナイフで切って食べるという行為は、箸文化と明らかに対峙しているのではないかとさえ思う。

時々、日本人とドイツ人は比較的似ていますよね、と訊かれることがある。確かに時間に正確だとか、勤勉だとかいう面は同じように見えるかもしれないが、話す言語と食べているものが違っていて同じ思考回路になるわけがない、と最近思うようになった。だから、ドイツの人と日本の人の考え方はまったく違うと感じている。

素朴な日本食と美味しい日本酒を頂きながら、刺して切って食べる食文化と、つまんで食べる食文化の違いの大きさを感じ、改めて日本食の奥深さを感じた素敵な食事会だった。本当にご馳走様でした。この場を借りて感謝申し上げます。

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