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還流独歩

ドイツの住宅着工数と建築的均衡 2010.05.09

ドイツの某断熱材メーカーから届いたメール定期便の中に、ドイツ統計局の報告が掲載されていた。それによると、2009年に建築確認の認可を受けた住宅建築の戸数は178,000件で、前年の2008年と比較すると約3,300戸の増加に点じ、その伸びは約1.9%であった。2007年は、2006年に対して26.2%低下し、2008年も対前年比で4.4%の低減となったことを考えると、ここ数年の住宅建築に対する確認許可数の減少傾向には歯止めがかかるのではないかとのことである。

また、dena/ドイツエネルギー機構によると、ドイツの既存住宅の75%が築30年以上であり、そのうち改修が行われたのは、まだ全体の35%に過ぎないという。ベルリンにある住宅に関する研究所の報告では、未改修の住宅で消費される暖房エネルギーは、断熱改修を行った住宅の2.5倍から3.0倍という結果が出ている。つまり、築30年以上の既存住宅の断熱性能を高めるだけで、暖房費が3分の1程度にまで下がるため、ドイツ政府は、こういった未改修の住宅の断熱改修を積極的に進めるための支援政策に力を入れている。

日本でも、断熱改修への関心が高まり、各方面でいろいろな取組みがなされている。その一方で、断熱性を高めることに対して根強い抵抗もある。ドイツの一般的な住宅には冷房がなく、基本的に暖房が主体であるから、暖房費を抑えるためには断熱材をできるだけ厚くすれば良いことになる。これは一方向的な進化だといえるだろう。それに対して、ドイツとは気候が大きく異なる日本では、断熱だけを高めることが、はたしてどの地域にもあてはめて良いのかどうかが問題なのだ。

住まいに対する価値観や優先順位は人によって千差万別だ。見える部分だけを重視する人もいるだろうし、建てた後では改修不可能な基礎などに着目する人だって少なくない。断熱材を厚くするくらいなら、その分のお金を使って水廻りをより良いものを使いたいと考える人もいる。それを全否定してはいけないと私は思う。建築はやっぱり均衡/バランスだ。どこにどれだけお金をかけるかは建築主の意向にもよるけれど、建物全体をいろいろな角度で検証したときの均衡さも大切だと思う。

それでもやっぱり、夏は涼しくて、冬は暖かい家が良いに違いない。そして、冷房費も暖房費も、あまりかからない家がこれからますます求められて行くはずだ。建築としての均衡を保ちながら、それらを実現することなど、容易なことではないかもしれないが、既にたくさんの人が試行錯誤を繰り返し、そして具現化している。それらの一つ一つが様々な検討の上に実現したものであればこそ、答えはたくさんあって良いのかもしれない。最近、そんなことを考えたりするのである。

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