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還流独歩

玄関とスリッパ 2010.05.27

日本では来客にスリッパを勧めることが多い。個人のお宅でも事務所でも、玄関や入口で靴を脱ぐ必要がある場所には、大抵スリッパが用意されている。靴を脱いで上がった部分が、もしカーペットだったら靴下のまま失礼することもあるかもしれないが、フローリングだと、スリッパに履き替えることが多いはずだ。

客に対しスリッパを出すというのは、床が奇麗とか汚いとかに関わらず、足が床に直接触れないようにするためであり、それはまたお客様を丁寧にお迎えしようという敬いの表れだろう。あるいは冬には床が冷たくなるお宅であれば、スリッパを履いた方が暖かいし、歩き心地が多少は軟らかなるいうこともあるかもしれない。

私はこのスリッパの存在が、ずっと気になっている。スリッパに対して強い嫌悪感があるわけではないのだが、何となく好きではない。ずっと履いていると足が少し蒸れたりするし、お手洗いに行くと、履いているスリッパを脱いで、お手洗いの中にあるスリッパに履き替えるという実に些細なことが実は面倒にも感じたりしている。

そんなスリッパというものがドイツにはない。玄関から室内に上がるときの框(かまち)などないから、ほとんど家には玄関の段差がない。それが、玄関で靴を脱ぐ習慣がないことと大きく関係しているかどうかは分からない。靴を脱がないから段差が不要なのか、段差がないから靴を脱ぐ必要がないのだろうか。

だからといって靴を脱がないかというと、そうではない。家の中でも靴を履いて生活している人もいるし、その一方で、室内履きに替える人も多くいる。あるいは、日本のように裸足や靴下で過ごすことも普通である。でもやっぱりスリッパというようなものがないし、お手洗いでも見かけたこともない。

日本で見かけるようなスリッパをドイツで探し続けてきたけれど、それは存在しないということに一旦しておこう。

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