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還流独歩

熱損失係数を考える その2 2010.07.10

その1からの続きです。

ところで環境工学の分野では、W/Kで表す数値を慣例的に熱損失と呼んでいるが、それはいま述べたような室温よりも外気温が低い場合にあてはまる。しかし、外気温が室温よりも高い場合には熱取得になるわけだから、熱損失という言い方は正確ではない。日射の影響を考えないものとし、仮に外気温が33℃のときに室温を26℃に保つためには、200W/Kに内外温度差である7℃を乗じると1400Wという数値が出てくる。これは熱取得に対する冷房負荷となる。

熱損失係数というのは、建物の断熱性能を数値的に表したものだが、これは断熱というものが暖房に対してだけ効果があるという誤解を与えてしまっている面があるのではないだろうか。断熱性能は暖房に対してだけ求められるものではなく、夏のような外気温が高い条件のときにも必要であるということをしっかり理解している人は少ないかもしれない。「断熱性の良い家は、夏に暑くなりませんか」という疑問が相変わらず多いことが、それを示している。

話がずれてきたが、断熱は決して暖房が主体の地域にだけ有益なものではなく、冷房が必要な暑いところでも重要な役割を果たす。そう言っても素直に受け入れられない傾向がいまだにあるようだ。昔の藁葺き屋根の家が、なぜ屋根を厚くしているかというと、防水と断熱のためである。これを否定する人はいないだろう。それが理解できるなら、断熱すると夏には室内に熱が余計にこもるという考えには行き着かないはずだ。

ただし、誤解を受けないように一つだけ重要なことを補足すると、夏は日射の影響が非常に大きいから、窓から日射が直接入らないような工夫が絶対に必要になる。いくら断熱をしても、日射を不用意に取り込んでいたら、室内の温度は上昇するに決まっている。そうなると確かに熱がこもるということになる。断熱のことを誤解をしている人は、この二つを混合しているのだろう。

話を冷房負荷に戻すと、断熱性能を上げることで、最初に書いた冷房負荷を抑えることができるというのは、ごく当たり前だということがわかるだろう。壁の熱的性能が200W/Kではなく、半分の100K/Wで、温度の条件も同じであれば、冷房負荷は半分の700Wになる。仮にその空間を冷房しているとして、冷房負荷が半分になれば、冷房の稼働率もおおよそ半分になるし、電気代も安く抑えられる。それを否定する人はいない(と思いたい)。

逆の例を考えるなら、断熱性能の悪い冷蔵庫と、断熱がしっかりしている冷蔵庫があった場合、どちらの方を買うだろうか。同じことが建築にもあてはまるということを、しっかり伝えて行く義務が、建築家にも設備設計者にも求められている。そんなことを書くと、開放的な日本の伝統的建築を否定しているという誤解を受けるかもしれないが、そう指摘する人は、いま日本中で建てられている住宅の大半がどのようなものか、もう一度考えて欲しいと思う。

その3へ続きます。

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