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熱損失係数を考える その3 2010.07.11

その2からの続きです。

話を熱損失に戻す。昨日、説明したように、室温と外気温の条件が違えば、室内にとって熱取得になることもあるわけだから、熱損失という名称はやめて、例えば「熱性能値」、あるいは「温度差係数」と言うようにした方が良いのではないだろうか。あるいは「熱移動係数」も考えられる。もっとも係数という言葉をつけると、単位面積当たりのQ値と誤解を受けるおそれもあるので、「熱移動数」の方が相応しいかもしれない。ともかくその方が「熱損失」という一方向的なものの見方をした名称よりも熱の現象を的確に示していると思う。

ところで今回、熱損失係数と呼ばれているQ値ももちろん算出した。この値については参照できるサイトがたくさんあるので、ここで説明する必要もないと思うから割愛するが、上記のことを踏まえて、Q値のことをここでは熱移動係数と呼ぶことにする。そして今回、その値を自分で算出してみて改めて気づいた重要な点がある。それは、熱損失数(熱損失)を「面積」で割るのは理にかなっていないということだ。建築は平面ではないのだから、徐すなら「容積」でなければならない。つまりW/㎥Kを用いるべきである。

その理由はいくつかある。まず第一に、熱損失係数というのは、屋根、一階の床、そして外壁に囲まれた空間の熱移動を対象にするのだから、それを平面の面積で徐すとなると、延床面積が大きければ大きいほどQ値は小さくなる。ここで仮に一階の面積と家の高さが同じ住宅が二つあるとしよう。片方は一階と二階の面積が同じで、もう一つの家は二階がまったくない天井の高い家だとする。この二つの住宅の熱移動係数を単純に延床面積で比較すると、後者は前者の数値の倍になってしまう。

どちらも一階の面積を50㎡とすると、前者の延床面積は100㎡で、後者は50㎡である。この二つの住宅の熱損失が同じ200W/Kだった場合、いわゆる総二階の家のQ値は2.0W/㎡Kで、もう一つは4.0W/㎡Kとなる。同じ断熱性能を持っているにもかかわらず、数値が倍も違うというのは明らかに矛盾している。前者は二階の床がある分だけ、気積としては少し小さくはなるが、純粋に外壁に囲まれている容積だけを考えれば、両者にはその差はない。

どちらの熱的性能も変わらないのに、面積の定義によって値は大きく変わってしまう。私にとって、それがどうしても納得が行かないのである。

その4へ続きます。

加筆訂正:2010年7月15日(木)/2011年2月11日(金)

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