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還流独歩

熱損失係数を考える その4 2010.07.12

その3からの続きです。

北海道の住宅に限らず、最近では、基礎の立ち上がり部分も断熱することが求められるようになってきている。床下から基礎を通じて逃げる熱を抑えるために、断熱する面積を増やしているにも関わらず、この部分を熱移動係数(Q値)の算出に含めてしまうと、外壁に相当する面積が増えるわけだから、最終的に得られる数値は大きくなる。つまり、断熱する面積の増加に比例して、Q値も大きくなる。実におかしい。

そこで少し調べてみたら、北海道住宅新聞社のサイトに次のような記事が掲載されていた。「北方型住宅ECOモデルの熱損失係数=Q値計算で使用する床面積は、実質床面積だけでなく、基礎断熱した床下など断熱区画された空間を含めた気積を2.6で割った相当床面積も認められる。これにより屋根断熱・基礎断熱の住宅のQ値が不利になると言われる点が解消されそうだ」(以下省略)。

つまり、Q値の算出には確認申請に提出する延床面積ではなく、相当床面積という概念を用いるということなのだ。いろいろな方が協議して出した結論だから私は意見を挟むつもりはないが、要は容積で割ったのとある意味変わらないのではないかと思う。これは法的な面積の算出に問題があるのではなく、建築という空間を常に面積だけで捉えてきたことに起因するのではないだろうか。

ドイツの例を引き合いに出して恐縮だが、建築の平面図には各空間の容積も記入するのがドイツのやり方だ。しかも確認申請の費用は面積ではなく容積によって異なっている。実に合理的な考え方だ。当たり前のことだが、床面積が同じでも、容積が異なる建物は無数に考えられるから、建築は平面で考えるものではなく立方として捉えるべきものなのだ。Q値を算出することに対して私は大いに賛成だが、これからは面積ではなく容積で除すことを、この場で強く提案したい。

建築には面積が常につきまとう。賃料や建設費を平米単価や坪単価で比較したりすることは仕方のないことだ。でも、本当の建築の良さは平面からは見えて来ない。だからこそ、設計事務所は模型をつくって空間のあり方を確認したりするのだ。建築を面積だけで捉えることは、建築に求められる空間的な質を無視することになりはしないだろうか。今回、Q値を算出してみてそんなことを強く感じたのである。

加筆訂正:2010年7月19日(月)

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