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還流独歩

設定温度は32℃ その2 2010.07.20

その1からの続きです。

せっかくの機会なので、壁の表面温度を測ってみた。窓の表面温度は33℃、外壁の内表面温度は30℃、上階がバルコニーとなっている窓側に近い天井は33℃、上階に居室がある天井は30℃、隣室の壁と奥の壁も30℃で、全部30℃以上だ。最も低い場所は日の入らないお手洗いの壁で、ここだけ29℃だった。確かにお手洗いに入ると、少し涼しく感じるものの、私がいる空間は30℃以上の壁で構成されていることになる。これで暑くないわけがない。

恩師の宿谷先生の研究によれば、壁の平均表面温度が29℃程度の場合で、着席時のような代謝量が多くない状況では、それほど暑くは感じないという結果が得られたという。人間の体表面温度は約33℃だから、壁の温度が30℃だと、身体から壁に向けての熱の移動が十分には得られないが、その温度が、わずか1℃下がった29℃程度であれば、暑い環境は避けられる可能性があるようだ。

人間の身体と周囲の環境との間には、常に熱放射のやり取りが繰り返されているから、身体からの熱の逃げがほんのもう少しだけ大きくなると、涼しい環境になるのかもしれない。あるいは仮に、一つの壁の温度が冬の時期のように極端に低かったら、ここまで暑くはないのかもしれないとも思う。ともかく、全体的に温室のような状態になっている事務所の中は、冷風が当たるところだけは涼しいが、それ以外の場所に動くと壁や天井の暑さがじんわりと伝わってくる。

この建物も断熱改修をしたら、内部の環境は大幅に改善されると思う。私はいつもそんなことを言っているのだから、実践すべきなのであろう。32℃に設定したエアコンをつけたり消したりしながら、扇風機の風に常に当たっているというのは不健康だし、ましてや資源の無駄だ。身体を壊さないための冷房でもあるけれど、建物の熱的性能というのは実に大切だと毎日30℃の高温の恒温空間で考えている。

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