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還流独歩

比較は東京中心 2010.07.28

「このダムの貯水量は、霞ヶ関ビルの容積の5000倍です」。5000倍という数字は適当だが、子供の頃、テレビや本の中で、そんな例えをいくつも聞いてきた。比較の対象は他にもあった。後楽園球場である。「この公園は、後楽園球場の10倍の大きさです」。それは東京ドームにとって変わられたが、相変わらず、広さや大きさを例えるのに使われていると思う。

でも札幌出身の私は、子供の頃、霞ヶ関ビルを見たことはなかったし、後楽園球場さえも行ったことがなかった。だからそんな比較をされても何の実感も湧かないのである。ものごとを少し斜に構えて捉える傾向のある私は、日本中の人で、霞ヶ関ビルと後楽園球場の両方を見たことがある人が、実際どれくらいいるのかの方がむしろ気になった。そして、子供心に東京中心の見方に対して納得が行かなかった。

日本の首都は東京だから、そこにある建物を事例にして何かを比較するというのは仕方がないことだとは思う。だから高さの話になったとき、東京ダワーが比較の対象として用いられることはあっても、札幌のテレビ塔や京都の京都タワー、大阪の通天閣が代わりに使われることは稀なはずだ。「このダムの水深は、札幌駅の脇に建つJRタワーが入ってしまうくらいの深さです」。そんな話は聞いたことがない。

「この島の大きさは、日本の最北端にある利尻・礼文島を合わせたのと同じ面積です」。「この川は、石狩川とほぼ一緒の長さです」。「この国の自然公園は、釧路湿原の1万倍です」。比較する側を東京以外のものにして考えると、余計に難しくなる気もするけれど、そんな見方もあって良いのではないかと勝手に思っている。

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