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還流独歩

電車の中で宿題をする少年 2010.07.30

都内を地下鉄で移動しているときに、隣りに小学生らしき男の子が座って来た。そして、手提げ鞄から問題集を即座に取出すと、すぐに問題を解き始めた。そして、鉛筆でしきりに答えを記入している。少々気になったので、開いているページの上の方を盗み見したら「小学5年社会科」と書かれている。塾の問題集なのか、学校の宿題なのか良くわからないが、彼は10分もかからないうちに数ページを終えて問題集を鞄にしまい込んでしまった。

彼はそれから何をすることもなく、じっと乗っている。携帯ゲーム機を出して遊ぶわけでもないし、漫画を取出して読みふけることもない。乗り合わせた時間は、ほんの僅かだけなのだが、最近の子にしては珍しいような気がした。降りがけに彼の横顔を見ると、どことなく賢そうな感じだった。これからどこへ行くのかは知らないが、電車の中で、そそくさと宿題らしきものを簡単に片付けてしまった彼に、私は妙に感心してしまったのである。

大人になったら子供のときのような学校の宿題が出ることはない。でもその代わり、いろいろな職業の人が、違った意味での宿題や、さまざまな問題を抱えて仕事をしている。それらの大半は、小学生の彼が鞄から取出して、鉛筆で書き込めるような問題ではない。遥かに難しいことが大半だろうし、逆に簡単に見えつつ、とても複雑な構図で形成されているときもあるに違いない。そもそも、問題集に書かれているような典型的な事例など極めて少ないはずだ。

小学5年の彼が問題を次々に解いて行くのを見たら、少し羨ましくも感じたのだが、ふとそんなことを考えながら、世の中は一筋縄では解決できない複合問題の方が多いだろうし、良く言われるように、その答えだって決して一つではないと思うのである。

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