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還流独歩

城の修復と人前で着替える女性たち その1 2010.08.03

ケルン工科大学の建築保存と再生にかかわる課程を履修していた頃、ケルンから西に50kmくらい離れたノートベルクという田舎町の片隅にある、ノートベルク城の修復に携わっていた。この課程はいずれの履修科目も必修で、約半年間、毎週土曜日に作業を行なうことで単位が取得できる。石造建築の本格的な補修とはいえないが、それが少しでも体感できる授業である。

城といっても規模は極めて小さい。しかも半分以上が崩れているので、修復作業というよりも、崩壊が進まないようにするための補修作業であった。数人ずつ各班に分かれて作業を行なうのだが、その前に、既存状態の確認と記録が必要となる。石の寸法を測り、写真を撮って現状を把握し、崩壊しそうな部分をどのように補修するかを打合せする。毎回行った作業の記録も残さなければならないから、それなりに大変だ。

ところで、この課程は、建築学科を卒業した人のために開かれている講座なので、基本的にはそのほとんどが、仕事しながら大学に通う社会人学生である。設計事務所に勤めている人もいれば、市の建築課に勤務する公務員もいる。自分で事務所を開きながら勉強を続ける場合もあるし、専業主婦だって通っている。ビール飲み仲間の友人は、家具職人の道から建築に進み、この講座を受けるためにケルンにやって来た。みんな多様で個性的だ。

城とは呼ぶには恥ずかしいほど小さな修復現場には、打合せができる現場小屋があり、その裏にはヘルメットや安全靴、工具類を入れた物置もある。セメントを混ぜるミキサーや、重いものを高いところへ持ち上げるリフトなども揃っているから、城そのものは小さいけれど、本格的な修復現場である。ここへ毎週土曜にやって来るのは、私は面倒に感じていたのだが、実は単位を取り終えた翌年も修復に参加してしまったという経緯がある。

私が担当したのは、壊れかけた開口部の修復と、窓の腰壁の崩れを抑えることであった。現状の崩れ具合を確認し、ホースで水をかけて洗い出しをしながら、修復の方法を探って行く。現場の石を再度使うのはもちろんだが、不足分は地上から適当な大きさの石をバケツに入れ、地上で練ったセメントも一緒にリフトで上階に運ぶ。そして石を一つ一つ積み上げて行く。実に地味な作業だ。

その2へ続きます。

加筆訂正:2010年8月4日(水)

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