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断熱と冷暖房 その1 2010.08.17

暑くても寒くても、私は断熱のことを考えてしまう。職業病のようなものだろう。だから普段から断熱の大切さについて言及することが多いが、時折、断熱は本当に必要なのだろうかと自問自答することが実は何度もあったりする。というのは、良く指摘されるように、日本のような蒸し暑い気候では、夏をできるだけ快適に過ごすために、断熱ではなく通風に重きを置く建築構法が発達してきたからだ。それは伝統的な木造建築に表れている。

だから「蒸し暑い気候に、ドイツような寒冷地並みの断熱性は本当に必要なのですか?」、「断熱材は湿度に対しては大丈夫なのですか?」と訊かれると、的確な答えを探して戸惑ってしまう。でも、何度も書いたように、私は断熱は必要だと思っている。なぜ必要かというと、室内の温熱環境が確実に改善されるし、特に冷暖房に必要な地下資源の消費を抑えることができるからだ。

それに対抗するかのように、ある人が現れて、次のようなことを仰る。「私にとって断熱は不要です。夏は少しくらい暑い方が良いし、冬だって少し着込めば何とかしのげますよ。だからもう何十年もの間、冷房も暖房もなしで暮らしています。むやみに冷暖房に頼らないから、むしろ健康で、冬でも風邪などひきませんよ。第一、お金がかかりませんから、それが一番じゃないですか」。これは架空の人物である。でも確実にいるに違いない。

そこで私はまた考えた。断熱というのは、実はいつの間にか「冷暖房を使うことを前提」として話をしてしまっているのではないかと気がついたのである。「暖房を減らすために断熱は欠かせません。断熱は冷房にも効果的です。だから日本全国の皆さん、きちんと断熱をしましょう」と言うは大袈裟だとしても、それに対して「これから家を建てますが、冷暖房は不要なので、断熱も要りません」という人が現れたら、私は何と言うべきなのだろうか。

どんな人でも、ある程度の断熱は必要だとは思っているだろう。でも建築主自らが、断熱不要宣言をしてしまったら、断熱の重要性をどのように説明すれば納得してもらえるのだろうか。いや、本質にかかわる建築主の意見は大いに尊重すべきだから、説得することなど素直に諦めて、断熱材のない家にしてしまうべきなのかもしれない。これは私の単なる空想の話なのだが、何だかそんなことを考えてしまう。

実際、断熱材のない家は、夏は熱くて冬は寒い。それは間違いない。でも、断熱材がなくても、室内の温度は外気温よりも高くなるのではないかと考える人は多いかもしれない。実際、自然室温という考え方があり、仮に外気温が0℃のときでも、室温が同じ0℃になるということはなく、少なくとも数度は違ってくる。例えば太陽が出ている日中は、窓から日射が入ったり、外壁に日が当たることで室温は上昇する。つまり太陽は室温を上げる方向に作用してくれるのだ。

その2へ続きます。

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