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還流独歩

断熱と冷暖房 その2 2010.08.18

その1からの続きです。

では夏はどうだろうか。自宅に戻ったときに、家の中が外よりも暑いと感じたことのある人は多いはずだ。学生の頃に住んでいた木造のアパートも実にひどかった。夏の暑い日に、家を一日空けたあとに帰って来ると、中の方が外よりも明らかに暑い。しかも2階だったから、日射を吸収した屋根瓦の熱が、天井を通り越して部屋全体をサウナのような状態にしてくれていた。天井の裏側に断熱材があれば少しは違ったはずだ。

つまり、言うまでもなく、太陽というのは冬でも夏でも室温を上げてくれる。だから断熱を施したら、冬は逆に太陽による昇温効果は薄れてしまうと考えられなくもない。壁に断熱材を入れると、日射で温まった外壁から熱が入ってくるのを阻害してしまうから、断熱材はない方が良いという結論に一見落ち着きそうだが、実際は違う。断熱材がないと外気温の変化を大きく受けてしまい、家の中の寒暖の差が激しくなるのである。

昼間、太陽の恩恵を受けて暖かかった室内は、日没と外気温の低下とともに急速に寒くなる。そんな経験をしたことがある人は少なくないはずだ。適度な断熱が施された家はそうはならない。しかも、夏でも窓からの日射を防ぐことができれば、外気温の変化に左右されることが少なくなる。壁や屋根からの熱の侵入を防ぎ、内表面の温度を少しでも低い状態で保つことができれば快適な温熱環境が得られる。

冬は家の中が少しくらい寒い方が身体に良いという意見に対し、正直なところ一理あると思うので、私も賛同できなくはない。ただ、そんなことを言う人も、室内が暖かいのと寒いのでは、どちらが快適ですかと訊かれたら、暖かい方だと答えてくれるのではないだろうか。それは私の勝手な願望なだけだが、家の中が暖かいというのは、やはり気持ちが良いものだと思う。いやむしろ、極端に寒いところがないというのでも良いかもしれない。

モロッコを旅したとき、どの家の外壁も30cmから40cmほどあった。構造上、それくらいの厚さが必要なのだとは思うが、この外壁のお陰で夏の室温は外気よりも10℃近く低く、冬は逆に10℃も暖かく保たれると聞いた。モロッコは夏も暑いが、標高が高いところだと、冬には雪が降るほど寒くなるというのだから、土壁の断熱はとても重要なのだ。土自体の熱容量はそれほど大きくはないとはいえ、壁が厚くなるとその効果も十分にあるのだろう。

日本の住宅は木造だから、モロッコの状況とはまったく違う。木の外壁は熱容量などない。もともと日本の建築は石造に比べると軽い。軽いということは、熱を溜めにくいと考えても良いはずだ。つまり外気温の変化に左右されやすい構造なのである。そこに断熱を施しても意味がないと捉えるか、逆にだからこそ断熱に力を入れるべきだと考えるかは大きな違いだ。それに気がつきながら、ずっと何もしなかったというなら、建築の責任は極めて大きい。

私は、夏は涼しくて、冬は暖かい家が増えて欲しいと思っている。多分、私以外の人も、そんな家に住みたいはずだ。それは断熱性を高めるだけで実現するものではないし、答えだって一つではない。それを求めて多くの人が尽力しているから、私もそれを見習って行きたい。簡単ではない道のりだからこそ取組み甲斐があると考えよう。

暑い毎日が続いているせいか、まとまりのない内容になってしまったけれど、断熱についてはこれからも熱く語って行きたいと思うのである。

加筆訂正:2010年8月24日(火)

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