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秋の一日旅行 その2 2010.10.25

中札内美術館は、いつだったか六花亭のウェブサイト見ていて、何となく気になっていたところである。ここには、柏の森に囲まれた美術館がいくつか点在しており、六花亭が直営する小さなレストランも併設されている。樹々の合間から差し込む秋の日射しを受けながら、相原求一朗と小泉淳作の美術館を回る。

そのあと、4kmほど離れた「六花の森」へ行く。ここには十勝に入植した坂本直行の絵と一緒に、1960年(昭和35年)から毎月発行されている「サイロ」という児童詩集誌の50年に亘る歴史を紹介した小さな美術館が数棟建てられている。その脇には澄んだせせらぎが流れ、十勝平野の穏やかな風景をまさに切り取ったようなところである。

ところで「サイロ」という詩集は、私も帯広に住んでいた頃に何度も目にしているし、学校に通っていたときに、きっと一度くらいは書かされたことがあるはずなのだが、残念ながらその記憶はない。ただ、リッチランドというお菓子の袋に、子供たちの作文や詩が書かれていたのは知っている。多分、それはいまも続いているはずだ。

50年という半世紀の間に掲載された作文や詩は1万2千近くあり、そのうちの120編を一冊にまとめた本も出版されている。点在する小さな美術館には、50年間の詩集の表紙とともに、数多くの中からさらに絞り込んだ作品が壁に掲げられていた。その一つ一つが秀逸で、子供の独創的な視点を表現した文章に感銘さえ受ける。

その中の一つに、春の訪れを見事に捉えた作品があった。小学校1年の女の子が、1960年(昭和35年)に書いたもので、サイロが初版された本当に初期の頃のものである。小さな美術館の中で私は立ち止まったまま、その詩を何度も読み返した。そして熱い感情が胸に沸き上がって来るのを覚えた。

厳しい冬を終えて、徐々にやって来る春の気配を、女の子の優しい言葉で表現したこの詩は、恥ずかしながら私の心を大きく揺さぶった。わずか6行の詩で、これほどまでに心を打たれるとは思ってもいなかった。そして50年を経たいまでも多くの人の心を惹き付けるほどの魅力をこの詩は持っていると思う。せっかくなので、是非、ここで紹介したい。
 
 
春  小学1年 すがわらしょうこ

やまのしたから
はるが のぼってきたよ
ふくじゅそうを
さかせながら
がっこうの
がけまできたよ

サイロ 昭和35年4月4日号掲載
 
 
女の子が通っていた学校は山の中腹あたりにあったのだろうか。多分、女の子の家は、学校よりも下にあったのかもしれない。麓にやって来た春が、学校のあるところまで上って来ていることを、きっと通学路を歩きながら感じ取っていたに違いない。その春は学校のすぐ手前まで来ているという進行形で終わっているところに胸を打たれる思いである。
 
 
▽連結
小田豊四郎記念基金
直行さんと『サイロ』全日空機内誌「翼の大国」2010年7月号/No.493

加筆訂正:2010年10月29日(金)

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