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還流独歩

秋の一日旅行 その3 2010.10.26

14時半頃、中札内をあとにし、襟裳岬を回って帰ることにした。広尾から襟裳岬への道は、日高山脈の一端が、そのまま太平洋へと潜り込んでいるところで、険しい崖が海にそのまませり出す断崖絶壁の下につくられた国道である。道路の建設に巨額のお金がつぎ込まれたので「黄金道路(おうごんどうろ)」と呼ばれている。

かつては、波が迫るところにせり出した道が多く、天候が悪く海が荒れたときには、すぐに通行止めになってしまうほどの難所だった。いまは古いトンネルのさらに内陸側に新しいトンネルがいくつか完成したので、簡単に通れるようになってしまったが、それでも迫力のある風景が続く名所であることに変わりない。

黄金道路を抜け、襟裳岬まであともう少しというところを快走していたら、左に緩やかに曲がった道路の先に、エゾ鹿が2頭立っていた。幸いにも衝突することはなかったが、1頭は左車線の真ん中に立ち、私の方をじっと見つめたまま微動だにしない。距離にして5-6mくらいだろうか。仕方ないので、私もそのまま車の中からじっと目を合わせていたら、何の挨拶もなく茂みに立ち去ってしまった。鹿飛び出し注意の標識は事実であった。

襟裳岬に来るのは20年振りくらいだと思う。いつ見ても岬の先端は豪快だ。地の果てとまでは言わないが、荒涼とした風景と崖が太平洋に沈み込む景色は何とも言えない迫力がある。駐車場に止っている車は20台ほどだろうか。日曜だから観光で来たらしき人はそれなりにいるものの、いたって静かな光景だ。西に沈みかけた太陽が眩しい。

16時過ぎ、襟裳岬を出発する。ここから家までは高速道路が整備されていない一般道が続く250kmの道のりである。途中の日高富川から沼ノ端西までは無料区間だが、方角が少し違うので、交通量の少ない一般の方が最短距離になるし、おそらく速いだろう。いくつもの街と川と小さな峠を越えて、20時前に無事戻ってきた。

一般道しか使わなかったのに、250kmを約3時間半で走り切った。平均時速に換算すると約70kmである。ナビゲーションシステムが示していた到着時間を1時間半も短縮してしまった。その理由を訊かれると答えに窮するが、交通量の少ない北海道では、ごく一般的なことだということにしておこう。

今日は、晩秋の太陽に恵まれた中で、十勝平野の広大な景色を楽しみつつ、芸術にも触れることができたし、断崖の続く険しい黄金道路と、風が吹抜ける豪快な襟裳岬も久しぶりに目に焼き付けることができた。心を熱くする50年前の女の子の詩にも感動したし、たまに見かけるとはいえ、つぶらな瞳のエゾ鹿にも出会えたことも深く心に刻まれたように思う。

車という便利な移動手段のお陰で、500kmに及ぶ道のりを一日で走破しながら、北海道の懐の深さを改めて実感することができた。実に幸せなことだと思うのである。
 
加筆訂正:2010年11月3日(水)/2011年7月22日(金)

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