オランダ語 2010.10.30
ドイツから、ローイボス/Rooibosという柔らかな香りのする紅茶を何箱か買って来た。日本だと「ルイボスティー」と呼ばれているが、同じものを日本で買うと、とても高い。これから寒くなる季節には、朝の一杯が格別に美味しいし、一息入れるときにもちょうど良い紅茶なのである。そのまま飲んでも良いが、濃い牛乳で割ってミルクティーにすると格別である。残念なことに、日本の牛乳はどれも薄いから、入れるなら低温殺菌牛乳が望ましいだろう。
ところで、この「ローイボス」という名前を英語に直すと「レッドブッシュ」になる。その語源が実はオランダ語だということを知っている人は少ないかもしれない。アフリカには、アフリカーンス語というのがあって、現地のことばとオランダ語が混ざったものだ。オランダの人は、船に乗って世界のどこへでも出かけて(悪さをして…失礼)いた名残であろう。南アフリカ共和国の「ヨハネスブルグ」という首都の名前だって、オランダ人がつけたに違いない。
話は戻って、「ローイボス」ということばにも、もちろんオランダ語が混ざっている。「ローイ/rooi」は、オランダ語で「赤」を意味する「ロート/rood」が語源だし、「ボス/bos」も茂みを示す「haarbos」が短くなったものだろう。単に馴染みがないだけで、何も難しくはない。そういえば、日本語になってしまったオランダ語の代表格といえば、コップだろうか。実際、コーヒーを一杯頼むときにも、コップコフィーのように普通に用いられている。
そもそも、人種隔離政策を示す「アパルトヘイト」だってオランダ語だ。「アパルト」とは「アパート」のことだから「分離」を意味する。「ヘイト」とは、ドイツ語でいうところの「ハイト」で、形容詞の語尾について名詞化する役割を持っている。例えば「自由な」とか「空いている」は「フライ」で、名詞の「自由」は「フライハイト」となる。それをオランダ語では「フレイヘイト」と言う。ドイツ語に比べて、ちょっと間の抜けた感じがするのがオランダ語だ。失礼。
おまけで書き足しておく。英語で「有難う」は「サンキュー」で、ドイツ語は「ダンケ」である。だいたい誰でも知っているこの「サンキュー」と「ダンケ」ということばには、互いの共通点がほとんど感じられないが、そこにオランダ語が入ると、三つの言語が一気につながる。私がここで偉そうに言う程のことではないのだが、オランダ語で「有難う」は「ダンキュ/Dank U」である。最初は私も冗談かと思ったが、紛れもない事実だ。
さらに余談だが、調べてみたら、アフリカーンス語で「有難う」は「ダンキー」というらしい。失礼な言い方だが、これはオランダ語の「ダンキュ」にも負けないくらいの素晴らしい合成語だろう。オランダの人は、遥々(はるばる)日本にやって来て長崎で出島まで造って居座っていたのだから、実に奇特な人たちだと思う。そう考えると、比較的近いアフリカで、オランダ語の影響が脈々と残されているのは理解できる気がするのである。
もう一つ付け加えさえてもらうと、ナチスドイツの迫害を受け、収容先で亡くなったアンネ・フランクは、ドイツの出身なのだが、アムステルダムでの潜伏生活を綴った日記はオランダ語で書いている。私はアンネ・フランク・ハウスで、彼女の直筆の日記を実際に見たから間違いない。かつては世界を席巻したオランダ人だからこそ、弱い人を匿(かくま)う正義感と優しい心を持っているのかもしれない。
オランダという国から学ぶことは大いにあると私は思っている。
加筆訂正:2011年2月3日(木)/9月16日(金)