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還流独歩

手描きとCAD その2 2010.11.18

それから、CADで図面を描き始めると正確さが問われる。手書きの良さが持つ、ほどほど感というのもが出せないのだ。10cmの線は間違いないく10cmであり、その先の線まで0.5ミリ足りなくても線はつながらない。つまり微妙さを表現できないのだ。そこがCADの良さでもあり、また誤差を許さないからゆえの手書きとは違う面倒さがある。

手書きがアナログだとすると、CADはデジタルだ。だからといって、CADの作業が歯切れが良いかというとそうでもない。手で描くことはアナログのように見えるが、決め描きが必要だ。それに対してCADは、いくらでも変更が可能だから、そういう意味では実にいい加減なのである。手書きとCADの違いが正反対で面白い。

話はまだ続く。手書きは一本一本が本気の線だが、CADのはそれほど本気ではない。移動させるのも消すのも簡単だから、決めては書くが、それらは暫定的に書いた線の塊だったりする。それが便利だからこそCADを使うのだし、暫定線は次第に本気の線になっては行くものの、図面としての微妙な軽さは残ってしまう。

他にも書きたいことがまだある。CADでの作図作業には適度な切りがなく、いつまでも終わらない感じがすることだ。手書きでも同じことが言えるのかもしれないが、CADの方が切りの良いところで終えるまでに時間がかかってしまう気がするのだ。訂正しなくても構わないような些細なことでも、つい手を加えたくなってしまう。

さらに、これもまたあり得ない話の一つとして時折思うのだが、もし私が仮に世界的に有名な建築家らしき人間になって、その死後に個展が開かれたとしよう。そこに展示されるものとして、生前の写真やスケッチ、日々使っていた手帳などが挙げられるはずだが、私が描いたCAD図面が展示されるかというと大いに疑問が沸く。

翻って、その建築家は別に私である必要はない。現在、活躍している著名な建築家の個展などに出展されるのは、やはりスケッチや模型などが中心となるのではないかと思う。とは言うものの、ある建物の個性を決める重要な部分の詳細図がCADで描かれていたとしたら、誰が描いたとしても展示する価値が出て来るかもしれないとも思ったりする。

そんなことを考えながらCADで図面を描いている私は、自分でも実に変わっていると思うが、手描きとCADは手紙と電子メールのような関係なのかもしれない。そのどちらも欠かせないのだから、手書きとCADの両方の良さを活かしつつ、これからも適度に使い分けて行けば良いのだろう。

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