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還流独歩

新春湯巡り その1 2011.01.01

年末に銭湯の話をしたので、新年もそのままの流れで行きたいと思う。私は別に「銭湯大使」でも何でもないし、都内の銭湯にすべて入るという野望を抱いているわけでもない。そんな人は他にもたくさんいるし、銭湯については第一人者と言われる町田忍さんをはじめとして、専門家の方が何人もいらっしゃるので、その人たちの足下にも及ばないことは自分でも十分承知している。ただ、学生のときはずっと銭湯に通っていたこともあって、普段は公衆浴場を利用しない人に比べたら、かなりの数の銭湯を体験して来ていると思う。

元旦といえば銭湯は休みと決まっている。二日は朝に開店し、朝風呂を提供して昼過ぎに閉店。そして三日はまた休みで、四日から平常営業というのが大方だ。しかしすべての銭湯に当てはまるわけではない。新年初日に営業している銭湯は何軒もある。そこで、東京都公衆浴場業生活衛生同業組合のサイトを見たら、東京都内のほぼすべての銭湯の年末年始の営業日が掲載されていることがわかった。インターネットというのは実に便利な媒体である。元旦に銭湯に行くというのは、ある意味、贅沢なことだろう。

普段、銭湯に電話することなど絶対にないのだが、公衆浴場組合のサイトには営業時間が書かれていないので、恐縮ながら昼過ぎに何軒か電話をしてみた。まずは新宿区上落合にある「松の湯」さんである。元旦の今日は14時までだという。同じく新宿区山吹町にある別の「松の湯」さんに電話したら出ない。おそらくもう閉店してしまっているのだろう。夕方、作業を終えて試しに行ってみたら、やはり閉店していた。ここは12時までだったらしい。頭の中に入っているのは、あと二軒である。何も無理して銭湯に行く必要はないのだが、気持を入れ替えて地下鉄南北線の西ヶ原へ行く。

初めて降りる駅だ。目指すは、徒歩5分くらいのところにある「えびす湯」さんである。新年に実に相応しい名前だ。JR京浜東北線の王子駅からもそれほど遠くはない。もしかして、今日はもう閉店しているかもしれないという不安をよそに、しっかり営業していた。外観も内観も典型的な昔ながらの銭湯である。確か正月三が日も深夜1時まで営業するとのこと。今月の休みを見ると初日が10日(月)となっているから、9日(日)までは休まず営業するらしい。その姿勢に頭が下がる。高湿のフィンランドサウナも無料だし、他の銭湯では20円が必要なドライヤーも自由に使えるのが嬉しい。

そのサウナには手書きの看板が掲げられていた。全部で七項目があり、最初の三つは普通の内容である。「サウナには身体を良く洗ってから入って下さい」。「サウナから出たら、身体を洗ってから湯船に入って下さい」。「飲酒後にサウナを利用するのはご遠慮下さい」。酩酊した状態で風呂にだけ入るのは問題ないのだろうかと思いつつ、四つ目の訓示には次のように書かれていた。「ニンニクを食べてサウナに入らないで下さい」。汗をかきつつ思わず笑いがこみ上げた。これはどう考えても、サウナの中がニンニク臭くなってしまうからだとは思うが、実害のない私には楽しい内容だ。

帰りに玄関脇に掲げられた看板をよく見ると、平日は15時から深夜1時までの営業で、日曜は14時から同じく25時までの営業しているという。そんなに遅くまで開けていることに頭が下がる。湯水は地下130メートルから汲み上げた地下水を薪を使って沸かしているそうだ。都内の銭湯は、どこも経営が厳しいと聞いているから、風呂屋を維持して行くのは実に難しいことだと思うが、それでもこうして元旦から営業してくれるお陰で、大きな風呂に入れるというのは本当に感謝である。こういった銭湯が、たくさん残って欲しいと思いながら元旦が暮れて行った。これだけで十分に幸せである。

皆様、良い年をお迎えになりましたでしょうか。今年も、どうぞ宜しくお願い致します。
 
▽連結
えびす湯:東京都北区滝野川 1-1-20

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