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還流独歩

雪と富士山 2011.02.01

早朝から雪が激しく降り始めた。気温が低く、いかにも積もりそうな雪である。7時半過ぎに千歳空港へ向かう。いつも使う走り慣れた田舎道は降雪のため真っ白で、前灯をつけているのに道路のどこを走っているのかわからない。こんな日には道路の両脇に立てられている路肩を示す棒が頼りになる。外灯のように道路に張出した下向きの矢印も夏の時期に見ると、何のためにあるのか理解できないけれど、猛吹雪に出くわしたときには、その有難みが良くわかるのだ。

この様子だと飛行機の運行に遅れが出ているか、欠航もあり得るかもしれないと思いつつ慎重に走っていると、千歳空港まで10kmくらいのところから雪雲がなくなり、予想外にも晴れ間が見えて来た。空港に着くと快晴に近い天候である。この周辺は、長年の気象研究によってその存在が明らかになった「石狩湾低気圧」という局地的な気候因子の勢力範囲の境目で、千歳空港の北の地域は雪が降りやすいが、その南側はそれほど多く降るわけではないのだ。

空港に着くと、変更できない安い航空券にもかかわらず、雪の影響が懸念されるので、別の便に振り返られるという。予約していた昼前の便まで作業をするつもりだったので悩んだが、雪が急に降り始めて出発が遅れるということもあり得るから、9時半発の便に変更してもらった。搭乗時間までわずか30分弱しかないので少々落ち着かないが、今日は早めに出発することにしよう。飛行機は定刻から少し遅れたものの、快晴の空に向かって飛び立った。

1時間を過ぎた辺りから左の窓の遥か前方に銚子岬が見えて来た。飛行機は房総半島の上まで来てから進路を西に変え、東京湾を横切って羽田に向かう。後ろの席の人が一眼レフらしいカメラでシャッターを切った音が聞こえたので窓に目をやると、羽田空港の別の滑走路に降りる飛行機が着陸態勢に入りながら平行して飛んでいるのが見えた。そして視線を遠くに向けると、霞みの中に雪を抱いた富士山が聳(そびえ)ている。いままで見たことがないくらい大きい。

札幌生まれの私は富士山に対する思い入れは特にないけれど、久しぶりに見ると実に奇麗である。少しの間、見入ってしまった。東京湾を眼下に望みながら、飛行機が滑走路に向かってさらに高度を落とすと、雪に包まれた華麗なフジヤマは大都会の不揃いな建物の向こうに沈むように消えて行った。朝から雪にまみれたものの、快晴の空港から飛び立ち、そして冬晴れの東京湾から真っ白な富士山を望むことができたのは幸運である。

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