理念 建築 略歴 連絡
文章 視察 還流独歩 大福企画
還流独歩

パンの中身を捨てる男 その1 2011.02.17

ドイツのカッセルという街に住んで地元の設計事務所に通っていた10年くらい前のことである。その事務所では、お昼前に皆で軽い昼食を立食形式で摂るのが日課になっていた。食材は所員が持ち回りで買い出しをしに行き、ナイフやフォーク、皿などの用意や片付けは、その日の担当者が行うのである。おそらくそれはいまも変わっていないと思う。

ところで、ドイツにはたくさんのパンがあるが、その中でもブロートヒェン/Brotchenと呼ばれる丸くて小さなパンが最も一般的だろう。表面に切り込みを入れて焼いたラグビーボールのような形のものもあるし、ゼンメルと呼ばれる丸くて平たいのもある。私はパンについては詳しくないので、間違っているかもしれないが、だいたいそんな感じだ。

いずれにしろ、適度に膨れ上がったそのブロートヒェンは、上下の真ん中で水平に切って半分にし、切った面にバターを塗りつけ、そこにハムなりチーズなりを乗せて食べるものだ。上下に二つに切り分けたパンを重ねてハンバーガーのようにして食べている日本人らしき人を時折見かけるが、上下に切り分けたパンは別々に食べるのが基本だ。

それはさておき、そこの所員のうちのアヒムという同僚は、パンを水平に切ったときにできる中身の白い塊を、いつも奇麗に取り除いて捨てていた。私の中では、その白い部分がパンそのものだという認識があったのだが、パンとしての大切な部分は中身ではなく、周りの焼けた堅い部分の方だということをその場で知ることになった。つまり外側の食感の方が重要らしい。

とはいうものの、その彼のように中身を本当に捨ててしまう人は少数派で、大抵の人はそのままか、あるいは少しだけ中身を先に食べてしまうことも多いようだ。あるいは、バターを白い部分に思い切り押し付けて、中身を潰すようにして塗り込む人もいる。その上にハムやチーズを乗せて食べているのを見ると、ドイツでは外側の固い方が大事だということがわかる。

« »