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還流独歩

東北地方太平洋沖地震に寄せて 2011.04.01

2011年3月21日(月)から4月上旬まで表紙に掲載していた文章を、こちらに転載しました。
 
 
3月11日(金)の午後に東北地方の太平洋を襲った大震災から10日近くが過ぎました。日本の歴史上、かつてない程の大被害を受けた被災地の方々に対し、改めまして、心よりお見舞い申し上げるとともに、亡くなられた方々に謹んで哀悼の意を表します。

私は地震が発生する数時間前に、成田空港からフランクフルト空港へ向けて発ちました。地震が発生したことは、着陸前の機内で少しだけ聞かされた程度でした。その日の夕方、ケルンに着いてから、いくつもの報道機関が発する情報を確認すると、小さな画面の中に写し出される目を疑うような光景に驚愕し、正直なところ、ことばが見つかりませんでした。

東北地方の太平洋側を中心として、いまだに避難生活を余儀なくされている方々、そして東京電力福島第一原子力発電所からの放射性物質を避けるために、住み慣れた街から逃れざるを得ない方々のことを思うと、ドイツにいても、そのことが頭から離れることはなく、遠く離れていても、毎日が落ち着かない状況です。

大震災と津波、そして原子力発電所の事故の情報は、ドイツでも一面で報道され、連日、特集が組まれる状況になりました。それと同時に、私の安否を気遣う連絡が、日本やドイツ、あるいは他の国からいくつも入りました。幸いなことに、郷里も東京の事務所も大きな被害はなかったことは幸いですが、気持が晴れることはありません。

被災地が一刻も早く求めている緊急物資が、最も迅速に行われるはずであろう空輸による供給がなされず、時間のかかる陸路からの搬送だけに頼らなければならない現実に歯痒さを感じ、本来なら、どこにどのような物資を届ける必要があるかを率先して伝えるべき報道機関が、被災者の辛い状況を執拗に伝える姿勢に苛立ちを隠せません。

また首都圏では、十分な電力供給が得られない状況が続いています。それが実施される背景には、さまざまな憶測が流れているようですが、ドイツに居ながらにして不謹慎な言い方をさせて頂けるなら、この状況によって、これまで考える必要のなかったあたり前の有難さと、本当に必要なものが浮き彫りにされて来たように思います。

なるべく電気に頼らない生活、できる限りエクセルギー(エネルギー)の消費を少なくできる建築、自然の光で仕事や生活ができることの大切さ、外部環境と隔てるのではなく、むしろ交感できる建物のあり方など、これまでどこかの誰かがきっと言ってきたに違いないことを、いまこそもう一度見直すべきでしょう。

日本には資源がないと良く聞きますが、それは地下に埋まった化石燃料のことを示しています。確かに日本は地下資源に乏しいかもしれませんが、太陽や風、雨、あるいは雪といった地上資源が溢れています。巨大な技術だけに頼るのではなく、これからは、ただで手に入る環境からの働きかけをうまく建築に取り込めるような工夫がより一層求められるはずです。

それを目標に、日々、尽力している方が多くいらっしゃることを私は知っています。多くの犠牲を払うことになった今回の大震災を契機にするというのは極めて不適当な発言になりますが、エネクスレインの理念に掲げている方向が決して間違っていないことを再認識できた気がします。そして、それに共感して頂ける方と協動して行きたいと思っています。

被災地だけでなく、日本の復興には膨大な労力と時間が必要となるでしょう。私も何かできないかと思案していますが、恥ずかしながら正直なところ、まだ何も思い浮かびません。不思議な巡り合わせで、地震の直前に日本を離れてきてしまったことに対する何とも言えない気持のわだかまりを抱える日が続く中で、きっと何か思いつく日がやってくるような気もしています。

彼岸の夜に満月が輝いています。太陽の光と違って温かみはありませんが、冷たく暗い夜に、淡い月の光が被災者のみならず、不穏な生活を余儀なくされている皆さんを優しく包んでくれることを心から願っています。

ドイツ・ケルンにて

エネクスレイン/enexrain 小室大輔
 
加筆訂正:2011年4月5日(火)

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