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還流独歩

契約形態と社会構造 その1 2011.04.07

ドイツでは、大きな建物の設計を行うとき、意匠設計事務所の他に、構造設計、設備設計、防火設計、そして今回訪問したエネルギー関連や湿気、防音設計といった事務所が関わる。そういった事務所が協動して設計を進めるのは日本でも同じだが、最も異なるのはは、各事務所が建築主と直接契約を結んでいることが多いということだろう。つまり関わっている事務所間には上下関係がなく、対等な横並びになっている。

その中で、意匠設計事務所が全体を取りまとめる役割を担うが、建築主との契約を行なった事務所の名前がすべての図面に記入される。もちろんそうでない場合もあるが、例えば照明計画を行う事務所が建築主と直接契約すれば、それも明記される。建築主と設計にかかわる契約が一対一で行われるということは、設計料が、それぞれの事務所に直接支払われるということだ。日本ではお金の流れが縦方向で進んで行くことが多いが、並列だと分離発注の形態に近くなる。

大きな工事現場に行くと、それに関わるいくつもの会社名を記入した大型の看板が掲げられる。多い場合には、20社以上の名前がある。日本では工事の柵に建設会社と設計事務所の名前を見る程度であろう。ドイツのような細分化された手法が良いかどうかはわからないが、設計や工事に関わっている会社が、どのような役割を担って建物が建てられるのかが、より明確に表されることは事実である。それはまた責任を直接負うことでもある。

ドイツの社会にも大きな問題は山ほどあると思うが、以前にも書いたように、お金という媒体を通して一対一の対等な関係が築かれているというのは、もしかしたら社会構造の重要な一端を担っているのではないかとさえ思う。住宅を建てるときも、基礎、組積/構造、屋根、窓、断熱、内装、電気、給排水、暖房工事といった10社くらいが関わるから、それぞれの工事ごとに数社へ見積を依頼することになる。受注した場合には建築主から工事費用が直接支払われる。

これが何を意味するかというと、各工事を担当する会社は、同業他社と工事費の競争をさせられることは当然として、そこに技術的な進歩や開発が求められことにつながって行く。日本のように、いくら技術的に良くても、お金を握っているゼネコンから、金額が合わないと言われれば採用されることはない。ドイツで小さな工事会社が生き残れるのは、自ら建築主と工事金額の交渉ができる機会が極めて多いことが大いに関係している。

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