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還流独歩

偏在と遍在 その2 2011.04.16

中には水利権というものが問題になるかもしれないが、それは水が貴重であることを示している。そういった例外を除けば、自然エネルギーというのは、「偏在」する地下資源とまったく反対の存在である「地上資源」であり、誰もが平等に得られる光や風といった身の回りに「遍在」するものは、お金を払わなくても手に入るものと考えられる。光や風を使わないまま捨ててしまっても誰も文句は言わないし、環境に負担をかけることもない。

それらには、まったく価値がないかというとそうではない時代が来ている。そして地下資源だけに頼った社会から位一早く抜け出すための行動を開始することに躊躇している時間はもうないはずだ。世界中を震撼させている事故を収束させることができない状態が、これから先、何年、何十年も続きそうな状況の中、ただで手に入る「地上資源」から電力を生み出す技術の発展を推進して行くことになんの迷いが必要だろうか。

太陽エネルギーについて、先験的な実績を残した押田勇雄先生のことばが想い出される。「誰もがただで手に入るエネルギーは、できるだけ安価な技術を使って利用するべきである」。太陽光や太陽熱利用の技術が、これからさらに求められることには大いに賛成だが、その前に、自然の光を使って室内を明るくする昼光利用や、日射を積極的に取り込んで、それを暖房として利用するといったことも、それと同じかあるいは、むしろより大切ではないかと私は考えている。

我々に求められている課題は尽きない。それを解決する数多くの手法を探して行く過程の中で、これまであたり前であった生活様式の中に新たな方向性が自然と見い出され、それが大きな流れとなり、そう遠くない将来において、低燃費建築や低燃費社会を構築できるような提案をし続けて行かなければならない。ドイツがすべての原子力発電所の早期停止を打ち出したが、その情報を聞いて羨ましく感じている人が、日本国内にも無数にいると信じたい。

震災と原子力発電の事故で被災した人たちの、忍耐や辛抱が世界中から賞賛されているけれども、それは地震や津波で亡くなった方の分も必死に生きようとしている証であり、あるいは生命の危険に晒されながら懸命に作業に当っている人たちを思ってのことだろう。そうした人たちのことを考えると、いまこそ大転換を図り、世界を牽引するくらいの意思を持って取り組まないと、世界からの信用を取り戻すことは果てしなく難しくなる。

建築の分野に携わる人間の一人として、それに課せられた責任は決して小さくはないと感じている。先人たちの知恵を尊び、「地上資源」を適度に制御しながら、上手に利用できる低技術だけれども知的な「建築的設備」と、「地下資源」を出来だけ少なく使う「機械的設備」を融合させた建築が、これから先、より求められて行くのではないだろうか。建築をつくりあげるには時間がかかる。だからこそ、その方向を決して見失わないで行きたいと思う。

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