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エアバスA380搭乗記 その3 2011.05.21

主菜のところには、次のように書かれている。「やきとり、さやいんげん、人参、御飯」 または 「幕の内、牛肉の焼き肉、人参、玉ねぎ、ブロッコリー、椎茸御飯」(原文のまま)。これだけを頼りに食事をどちらかに決めるとすれば、やはり後者の方を選んでしまうのではないかと思う。最初に「幕の内」と書かれていると気になるし、単純に単語の数が多い分だけ、少しは豪勢な印象を受ける。私は牛肉をあまり食べないので構わないが、「牛肉の焼き肉」という日本語の方が気になった。おそらく「牛焼き肉」と書くべきかもしれない。

ところで「焼き鳥」を食べてみたが、想像していたのとは違っていた。実際は「鳥肉と野菜炒め御飯」だった。こう書けば、少しは焼き鳥の評価も上がったかもしれない。味は少し塩辛かったが、まあそれなりに美味しかった。しかし「牛肉の焼き肉」には「椎茸御飯」が付いているから、これも牛肉の方の魅力を高める効果があるだろう。それは致し方ないとして、食事の中には蕎麦もうどんも入っていないのに、なぜか「麺つゆ」が付いていた。後ろの席の人も「これ何にかけるの?」と冗談を言っている。海外の航空会社とはそんなものだということにしておこう。

食事の後、強い睡魔に襲われたが、出発が昼ということもあって、それを過ぎるとまったく眠くならない。夜便であれば、いつものように崩れ落ちるように眠りにつく時間が必ずあるのだが、ずっと起きているというのも意外と辛いものである。もっとも、日本についたらすぐにメールを送っておきたい人もいるから、そんな作業をしている間に、A380はシベリア上空の中間地点を通り過ぎている。機内はすべて消灯されているので、座席をいくつか使って横になって寝ている人も多い。私の手元には赤ワインと炭酸入りの水。これだけで十分贅沢だ。

北緯60度くらいを飛行しているのだろうか。夏も近づいているというのに、機体の下を映し出すカメラの映像には、白い雪か氷しか見えない。いつも思うのだが、こんなところで暮らしている人たちは、普段、どんな生活をしているのだろう。北海道で育った人間だけれど、シベリアはその想像を超えてしまう。気分転換にその様子を見ようと、照明が消された暗い機内を歩いて最後尾まで行ってみたら、扉の脇に小さな窓が付いているだけだった。少し開けてみたけれど、あまり良く見えないので止めた。

ゆっくりと流れて行く大きな白い大地を見るのは地球の不思議な営みが感じられるので、とても好きな光景なのだが、今回は外を見ることもほとんどなかった。一階の最後尾に上層階へとつながる螺旋状の階段があったので、試しに上がってみたら、犬を閉じ込めておくような柵によって仕切られ、しかもその奥にはカーテンがかけられていた。A380のビジネスクラスは真上にあるけれど実に遠いのである。そういえば、搭乗するときに上階を歩く人の靴音が聞こえたのは、何だか不思議だった。

ともかくエアバスA380は、地対速度920kmの巡行を続け、普通の飛行機と同じように何の問題もなく日本海に入った。その頃に出された朝食は、オムレツとジャガイモ、それにしなびけたやる気のないほうれん草だった。それを見て、以前にも食べたことがあったのを想い出した。日本海を上から下へと縦に抜けたエアバスは、成田空港の手前で何度か大きく蛇行してから、ほぼ定刻通り、朝7時半過ぎに成田空港へ到着した。機体が重いらしく、着陸のときには車輪が壊れるのではないかと思うくらいの衝撃があったが、何事もなかったようだ。

ということで、初めてのエアバスA380での移動は終了した。そして感想を訊かれても、明確に答えるようなことは特にはない気もする。ただ、大量輸送を目的とした飛行機だから、何となくだが事務的な感じも受ける。もともと飛行機は、そういう面があるから、巨大になったA380が悪いわけではないし、その印象は乗る人によって違うだろう。それでも二階建て飛行機というのは、どんなものか一度乗ってみたいと思わせる十分な魅力を持っていると思う。もし願わくば、いつか上階のゆったりとした席で移動してみたいものである。

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