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還流独歩

友人の新居と住文化 その2 2011.06.13

目の前には隣りの集合住宅が建っているが、40m程離れているから、視線を気にするほどのことでもない。その間には芝生が広がっているので、周囲の環境は実に開放感が溢れている。バルコニーの右手は貨物専用の線路が走っていて、一日に数本、列車が通るようだが、速度も遅く、まったく気にならないという。芝生に野ウサギが3羽ほど草をはんでいるところを見ると、小動物にとっても安全な場所なのだろう。ケケケと鳴く身体が白黒のカササギや、全体が黒いのに、くちばしだけが黄色のクロウタドリも頻繁に飛んで来る環境だ。

この住居は、バルコニーを隔てた隣りの家とは一回り小さく、日本で言うところのいわゆるワンルームマンションの部類に入るかと思う。築50年を経ているから、日本ではもうほとんど存在しないような集合住宅にもかかわらず、なぜか居住空間に豊かさを感じるのである。その友人と、なぜそういった感覚が得られるのか、バルコニーに座り、西日を浴びながら話した。その理由はわからないけれど、小さい空間にも関わらず、日本の集合住宅では得られないような、落ち着きさを感じるのは、わずか50年とはいえ、その地に根付いた住居の文化があるからなのかもしれない。

その友人とは知り合って10年くらいになるだろうか。引越した理由を聞いたり、互いの10年間を振り返った話や、日本の状況、あるいはこれからのことなどを熱く語っていると、時間は瞬く間に過ぎて行く。それにしても、ここには、ケルン市内とはまた違った住環境がある。実に静かで落ち着いているし、バルコニーの居心地も最高だ。夏至が近づき、日没も夜9時半過ぎだろうか。西の空に太陽が沈み、ようやく暗くなって来た。気がつけば、もう11時前だ。ウサギも鳥たちも寝床に戻ったのだろうか。6月の日曜が暮れて行く。

決して新しいとは言えない新居であったが、住まいとはどうあるべきなのかという示唆がまた少し得られた気がする。そして久しぶりにいろいろと話すことができて、気分もゆったりとさせてもらった。日曜の夜ということもあって、帰りの地下鉄がなかなか来ないが、何だか気持が豊かになったせいか、ゆっくり帰りたくなった。市内に入ってもホームにはほとんど人がいない。6月の3連休ということもあって、あちこち出かけている人が多いのだろうか。今日のような何気ないことが、最近、とても大切に思えるのである。

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