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還流独歩

サッカー選手と人間性 2011.06.21

夕べ、某報道機関のベルリン支局に勤める友人と久しぶりに会った。一昨日、ベルリンから飛行機でケルン・ボン空港まで来て、そこからレンタカーを借りて、ルクセンブルクまで行ってきたという。ドイツは、週末になると飛行機の本数が極端に減る区間がたくさんある。日曜には、ベルリンからルクセンブルクへの便がなかったらしい。逆にそのお陰でケルンで再会できることになった。

彼と知り合ったのは1998年だから、もう13年になる。4年程前までベルリンに3年程いたものの、人事の関係で東京に戻り、そしてこの4月から、またベルリン支局に返り咲いたのである。前回は家族と一緒だったが、子供が中学生と高校生になったため、学校の問題もあって、いまは単身赴任の身だという。そういえば、昨年9月のベルリンマラソンに出場したついでに、ケルンに立寄ってくれたこともあった。

宿泊先の近くの居酒屋に入り、適度に冷えたケルシュビアを飲みながら、互いの近況報告をしつつ、いろいろと語った。その中で、先月、夜中に突然メールが来たことがあったので、その話になった。5月中旬に、欧州で活躍する日本人のサッカー選手の選抜組と、ボルシア・ドルトムントが日本の復興を支援するため、慈善試合が行なわれたのである。約1万人の観客が集まったという。

彼は報道記者という仕事をしているから、証明書と旅券さえ持っていれば、いろんなところに出没できる特権を持っている。そのときも急遽、デュイスブルクで行なわれた試合を観戦することにし、そのあと深夜の新幹線でケルンに来て、そのままフランクフルト行きの新幹線に乗り換え、そしてウィーンへ行ったという。相変わらずの行動力には驚嘆させられるが、記者というのはそういうものなのだろう。

ドルトムントで活躍する香川や、ヴォルクスブルグの長谷部、シュトゥットガルトにいる岡崎、フライブルクの矢野などの日本人選手を間近で取材し、彼らから感じたことを話してくれた。それまでサッカー選手に抱いていた、ややもすると我が侭な印象とはまったく違い、どの選手も非常に紳士的で、そしてとても謙虚だったことが印象に残っているという。それを聞いて何だか気持が良くなって、ビールがさらに進んだ。

これはあくまでも彼の意見であり、私見ではない。でも、日本を離れ、異国のチームでサッカーをするのは並大抵なことではないはずだ。周囲との調和も保ちつつ、自己顕示欲も強くなければいけないだろうし、ことばも問題だってある。そんな環境の中で自分の能力を発揮するというのは、もちろん本人の才能と努力があってこそだとは思うのだが、やはり周りから受け入れられる人間性も極めて大切ではないかと思う。

もっと簡単に、しかも逆に言えば、嫌な奴は相手にされないということだろうし、まずは周りから、いい奴だと思わせる何かを持っていることが求められるに違いない。私はサッカーについては詳しくはないが、相手を蹴落としてでも自分が人より前に出なければならない世界のはずだ。これは他の運動競技にも当てはまることだろう。でも、欧州で活躍する選手は皆、サッカー選手である前に、人間的な魅力を備えているのだと思う。

私は彼らの誰とも会ったことはないし、本当のことなどまったく知らない。でも、きっと彼らが欧州のチームに受け入れられる背景には、決して奢らず、何ごとにも謙虚で、そして一人の人間として自立しているということが大きく関係しているのでないだろうか。そんなことを話しながら、次第に増えつつあるビールとともに、自分はどうなのかということを考えた。立場も世界もまったく違うけれど、自分もそうありたいと思う。

気のおけない友人から気持の良い話を聞くことができ、何だか人生の勉強になった気がするのである。

加筆訂正:2011年6月22日(水)/6月24日(金)

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