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手動変速機の世界 2011.06.26

車の変速機には、大きく分けて2種類ある。その一つが、マニュアル・トランスミッションである。英語をカタカナで表示すると長いが、日本語に直すと「手動変速機」となり、短くて便利だ。それに対して、オートマチック・トランスミッションがある。これは「自動変速機」と訳せば良いだろう。もう一つ「無段変速機」もあるが、これは「自動変速機に含めることにしよう。そして、いまさら説明する必要もないが、ともかく大雑把に言えば、手動変速機は、駆動部にある歯車を手動で切替えて走らせるやつで、自動変速機は、変速比を自動的に切り替える機能を有している。

前置きが長くなったが、ドイツ車の多くは「手動変速機」が圧倒的に多い。街角に路上駐車されている車の中を大雑把に確認すればわかるが、80%以上が手動変速ではないだろうか。レンタカーを借りても、ほとんどが手動変速の車だと思って良い。つまり予約や、借りるときに何も言わなければ、ほとんどの場合、変速機が手動の車を運転することになる。その一方で、メルセデス・ベンツやBMW、あるいは他社の車でも、いわゆる上級車種などでは、かなりの確率で自動変速機が用いられていることが多い。だから、すべての車が手動変速ということではない。

ドイツを走る車に手動変速が多い理由は、実のところ良くわからない。ただ、いくつか推測の域で言えることは、アウトバーンを時速150kmとか、あるいは180km以上で走るときがあるから、自動変速機の性能が極めて向上した現状でも、やはりギアが噛み合う方式の方が多少なりとも駆動効率が良いのではないだろうか。それからアウトバーンでは、エンジンブレーキをかけることが頻繁に生じる。それは運転する人によって大きく違うのかのもしれないが、エンジンブレーキによる堅実な減速力は、高速走行時に極めて有効だ。

ドイツでは追い抜いたらもとの車線に戻ることが、かなり徹底されている。だから車線変更も多く、目の前に遅い車やトラックが割り込んで来ることも少なくない。追越し車線に遅い車が入って来たらギアを数段落して減速し、その車が右車線に戻って前が空いたら、そのまま加速して、その車の前に入る。後ろからは、より速い車がすぐに追いついて来ることが多いから、追い抜いたあとは車線を空けなければならない。排気量の大きな車であれば加速に問題はないものの、それでも減速と加速が同時に行なえる手動変速機は、運転していて心強いのである。

それともう一つは、手動変速機の方が、車を動かしているという気持にさせてくれるような気がするのである。いや、それは単なる偏見かとは思う。きっと個人的に手動変速機の車が好きなだけなのだろう。高速走行からギアを落し、エンジンの回転数を上げて減速し、また一気に加速するとき、車を操作しているという気にさせてくれるのだ。自動変速も悪くはないとは思う。でも勝手に走っている気がして、機敏さが感じられない。ドライブから「2」や「L」に変えても、エンジンの回転数が増すまでの、あの微妙な間が気になるし、中途半端な減速力も頂けない。

車を持っていない私がこんなことを言うのも甚だ意味のない願望なのだが、もし万が一、車を買うことがあるような事態に陥った場合は、やはり手動変速車にしたいと思う。もっとも日本では、いまどき自動変速の車を選ぶ人はほとんどいないし、自動変速車よりも高いらしいと聞いているので、多分、あっさり諦める可能性は高い。でも、アウトバンーを走るとき、手動変速していると、何かしら言いようのない醍醐味を感じてしまったりする。自動変速機の技術の進歩も有難いし、それも大切だと思うが、個人的には、なぜか手動変速の方に惹かれてしまうのである。

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