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還流独歩

建築環境学 2011.06.29

最近の建築学科のことは良く知らないが、大雑把に言うと、以前は研究室が「意匠」「構造」「材料」「設備」の四系列に分かれていた。おそらくいまは、名称が少し変わってはいると思うが、だいたい同じではないかと思う。そこで校名まで変更してしまった母校の建築学科のサイトを見てみた。

大きく分けると以下の三つに分類されていることがわかった。私が在籍していた頃とは、やはり違っているようだ。個人的には「コース」という名称がひどく気に入らないが、たくさんの学生を集めるためには響きの良い名前をつける必要があるだろうから、細かなことを言うのは止めておこうと思う。

・建築計画・設計コース:建築計画 / 建築設計
・都市デザインコース:都市計画・都市デザイン
・建築工学コース:建築環境・設備 / 建築構造 / 建築材料・構法・生産

:のあとに示したように、それぞれのコースがさらに細分化されている。結局、簡単にまとめれば、「意匠設計」「都市計画」「それ以外の建築工学系」ということになるのだろう。名称と区分が少し違っているだけで、20年くらい前とさほど変わらないことがわかった。

そしてそのページを、もう一度よく見直してみると、「学びの内容」というところに次のように書かれている。「多面的要素を併せ持つ建築学を〈計画・設計系〉〈材工系〉〈構造系〉〈環境設備系〉の4系列から学修し、専門性を高めていきます」。表面は体裁良くまとめていても、以前と変わらないということだろう。

決して母校の教育課程を揶揄するつもりはない。実際、どういった授業が行なわれ、課題もどのように出されているかなど詳しいことは知らないのだが、ただ最近はどうなっているのか興味が沸いたし、自分が在籍していた頃とは、どう違うのかも何だか急に気になったのである。

ここから肝心の「建築環境学」に触れようと思ったが、今日は落しどころが自分でも良くわかっていないことに気づいた。ただ、一つだけ言及させてもらえれば、通常は「建築環境工学」と呼ばれているとうことだ。つまり「建築環境学」ではなく「建築環境(工)学」が普通なのである。

検索してみると、いくつかの大学で「建築環境学」という名称を用いているようだが、表示される項目のほとんどが「環境工学」となっている。大学の授業で使っていた本にも「工」の字がついていたから、それがあたり前のようになっていたが、恩師が「工」の字を取るようになってから、より身近に感じられるようになった。

そのついでに書くと、エントロピーとエクセルギーの勉強をし始めた頃、「熱力学」を学ぶ必要に駆られたときに、何冊も参考にしていた本の著者が、いつの間にか「熱力学」の「力」を取り去って「熱学」という名称を使い始めた。その本のためだけに考えたのかもしれないが、「力」が取れた分、まさに肩の力が抜けた気がした。

そして、恩師の研究室の研究目標のところには、次のように書かれている。以下、引用。

建築環境「工」学でなくて、建築環境学としている理由は、これからの工学には、これまでのところ主として人文科学や社会科学が扱ってきた(自然科学や工学の扱うところではなかった)人間の振る舞いについても積極的に取り上げていく必要があると考えるからです。

建築環境に関するこれまでの科学や工学が意識してきたものをハードウェアと呼ぶことにすれば、ソフトウェアについてのより積極的に研究する必要があるわけです。人にとって適切な建築環境とは何か、人にとって快とは何かなどを明らかにすることを目指し、延いては人間とは何かを明らかにしつつ、人間社会に本当の意味で必要となる技術を見出したいと考えます。

〈ヒト〉の振る舞いについては生理学や解剖学が、また〈人〉の振る舞いについては心理学が、さらには〈人間〉の振る舞いついては社会学が扱ってきたわけですが、これらと建築環境(の物理)学を、私たちなりに融合していきたいと考えています。(引用終わり)

これ以上の補足は必要ないだろう。私もそれに共感し、そしていまでもそれにこだわっている。そして、これからますます大切な概念になって行くのではないかとさえ感じている。それが本当か、あるいは正しいかはわからない。ただ、最初の授業で得た直感が「建築環境学」ヘと導いてくれたことは確かである。

「建築環境学」は研究のためだけにある学問ではない。無論、研究は大切だ。でもその範囲を超えて、もっと一般の人にもわかりやすい分野にしたいと私は思っている。建築環境学の中であたり前になっていることは、一般社会では意外とあたり前でないことが多いから、少しずつになってしまうかもしれないが、「建築環境学」は何かを発信し続けていきたいと思っている。

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