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還流独歩

建築環境学の話 その1 2011.06.30

昨日も触れたように、建築環境学というものを、もっと身近にして行く必要があると私は思っている。いま、太陽光発電や風力発電が大きく取り沙汰されているが、建物はそれらから生み出された電力を使う側である。もちろん実際に使っているのは我々だから、建築は間接的な使用と考えられなくもないが、やはり建物が消費すると考えるのは本筋から大きくずれることはないと思う。

学生の頃、DSM/デマンドサイド・マネジメントを少し習った。詳しく説明すると長くなるので割愛するが、要は使う側が需要量を制御するという考えであり、簡単に言えば節電もその中の一つである。この視点に立てば、電力を共有する技術も大切だが、使う側の技術や工夫はより大切になる。電力の供給をどうするのかという問題が大きくなればなるほど、建築環境学をもとにした観点が活きて来るのではないかと考えている。

ただ建築環境学といっても、その範囲は広いから、基礎的な研究から実践的なことをすぐに、そして多くを導き出すことは難しい。でも考え方の基本になるようなことがたくさんあれば、そこから何か具体的な示唆は得られるのではないかと思う。その分野であたり前になってしまっていることが、一般の人には意外と知られていないこともある。多分、そのあたりから開拓して行くべきなのかもしれない。

例えば熱の話で良く引き合いに出されるのが、サウナとお風呂の温度の違いである。90℃のサウナには入ることができるが、同じ温度のお風呂には入れない。おそらく最高でも44℃くらいが限界だろう。気温が35℃は暑いが、35℃のお風呂はぬるく感じる。その理由は、熱の伝わりやすさを示す熱伝導率が、空気と水で大きく異なるからである。そのおおまかな数値を上げると、空気は約0.025W/mKで、水は0.6W/mKである。

単位の説明は省くが、この数値から空気の方が熱を伝えにくく、水は空気よりも熱を24倍ほど伝えやすいことがわかる。さらに付け加えれば、空気は地球上の物質の中で、最も熱伝導が小さい媒体である。だから複層ガラスの中空層には空気を入れることが最も適している。もっとも最近では、アルゴンガスを封入した窓も普及し始めているが、気体という点では同じである。

空気というのは実に面白いもので、断熱材の代わりになるが、それ自体が対流してしまうと熱の伝わり方は速くなる。だから、複層ガラスの中空層の厚さは薄過ぎても厚過ぎても良くない。最も断熱性が高まる理想な空気層の厚さは16mmである。これは私が大学院に在籍していたときに恩師とともに行なった解析で明らかになっているし、ガラスに関する一般のカタログなどを見ればわかる。

実際、市販されているガラスは、中空層の厚さが6mmや12mmが多いが、わずか6mmの差であっても、断熱性能は12mmの方が遥かに優れている。熱貫流率で比較すると6mmに対して12mmのそれは70%程度に下がる。この差はガラスの表面に低放射率膜を施したものの方が大きくなることもわかっている。中空層が16mmの複層ガラスは、一般にはあまり用いられないが、可能であれば16mmを使いたい。

中空層が6mmの場合、その中で起きる対流は大きくないが、2枚のガラス面の距離が極めて近いため、空気を媒体とする熱伝導の影響を受けてしまう。また16mm以上では、今度は中で対流が生じてしまうため、熱が伝わりやすくなる。つまり中空層が薄いときは熱伝導が影響し、厚くなると対流が関係するので、窓の断熱性を考えるときには、中の空気層の厚さはとても重要なのである。

ガラスが一枚よりも二枚あった方が断熱性に優れているというようなことは周知の事実になっているが、中空層の厚さと断熱性の関係についてまで言及している情報は、それほど多くはないように思われる。だからといって、いま書いたようなことが建築環境学の神髄だなどと自慢するつもりなどない。ただ、家を建てたいと考えている人の多くでさえも、おそらく知らないか、あるいはそこまで意識が行かないのではないだろうか。
 
▼加筆訂正:2011年7月1日(土)
中空層の厚さの違いによる対流の影響は窓の高さも関係しているため、必ずしも16mmが最適とはいえない場合があるが、高さが2m程度までであれば、僅かながらだが、12mmよりも断熱性が増す。

また中空層厚が20mm以上になると、熱の伝わりやすさを示す熱貫流率は緩やかに上昇する。つまり中空層厚が25mmの複層ガラスの熱の伝えやすさは、16mmよりも少し増加する程度である。

上記の理由から、現在ドイツでは、12-16mmの中空層が2つある、3層ガラスが一般的に用いられている。

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