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冷蔵庫の断熱性と建築 その2 2011.07.06

話は少し戻って、建築は冷蔵庫でも保冷箱でもない。窓も必要だし、換気もしなければならない。だから建物は、単に厚い断熱材で包め込んでしまえば良いというものではないが、断熱性の高い冷蔵庫を選びたいと考える人が、断熱性の悪い建物を選択するということには、やはり大きな矛盾が生じはしないだろうか。この点に関して、あまり難しく考える必要はないのではないかとさえ思う。

家の光熱費は抑えたいけれども、車は排気量の大きい方が好みだという人がいるかもしれない。冷暖房費用はどうでも良くて、夏には冷房の設定温度をできるだけ下げて、家の中が冷え切るくらいの生活をし、冬は逆のことをしているけれども、車は低燃費が良いと考える人がいてもおかしくはない。世の中、意外といろいろなところで正負の均衡が保たれているものだ。

でも再度言いたい。断熱性の良い冷蔵庫の方が良いと考えるなら、その意識を建築にも向けて欲しい。断熱性の高い建物は、夏に熱気がこもりやすいと指摘する人がいるが、熱を断つための断熱材の入った壁が、断熱のない壁よりも熱を通しやすいわけがない。ただしそれには、窓から入り込む日射をできるだけ抑える必要がある。断熱と適切な日射遮蔽が組合わされば、室温の上昇は抑えられる。

モロッコを旅したときに、土でできた住宅の壁の厚さが30cmから40cmくらいあったことが印象に残っている。熱容量のある断熱材としての土壁と、日射を防ぐ小さな窓のお陰で、室内の気温は、何もしなくても、夏は外気温より10℃程低く、冬は逆に10℃程高まるという。土でできた冷蔵庫というのは少々大袈裟だが、建物の性能が温熱環境を制御する好例である。

その経験を踏まえると、断熱について、もはや難しく考える必要はない気がする。断熱性の良い冷蔵庫が望ましいという人は、建物もそうあるべきだと考えよう。機器の効率を高めることも大切だが、まずは建物の器としての性能を良くしよう。それだけで完璧な答えになるわけではないが、単純な二択の思考回路でものごとを考えることは、本質をあぶり出すことにつながるのではないかと最近は思っている。

断熱性の良い冷蔵庫と、良くない冷蔵庫のどちらを買いますか? 良い方を買うのであれば、建築はどうあるべきですか?

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