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還流独歩

住宅の形態と断熱 その2 2011.07.08

では、ドイツはどうだろうか。結論を先に言えば、土地がいくら広かろうが、ほとんどの住宅は総二階であり、その形態はほとんど変わらない。その理由の一つは、組積造だからだろう。石を積み上げる構法において、その重さと構造を考慮すれば、一階と二階の外壁の位置をずらすことは考えられない。だから必然的に総二階の家になる。ドイツでは、土地がどのような大きさでも、住宅の基本的な形態は変わらないのである。

日本とドイツの住宅を比較したところで、どちらが優れているかなど決められない。大雑把にいえば、日本は平屋が基本で、一般庶民が三階以上の建物を建ててはいけないということが暗黙の了解として受け入れられて来た背景があるし、ドイツは城壁の中に住まなければならなかったから、人口が増えると、上階に建て増しする以外に方法がなかった。だからドイツでは、中世の時代に縦方向の集合住宅ができ上がっている。

夏を涼しく過ごすために、床を上げて風を通すことを考え、日射を防ぐために軒を長く張出し、家の断熱性が悪いからこそ、緩衝空間としての縁側を考えた昔の人の知恵には感心せざるを得ない。でも、そういった住宅は皆無になってしまった。いつの間にか外観だけを、まさに表面的に模倣することで、捨てきれない伝統建築への憧れを保とうとしているように見えてならないというのは言い過ぎだろうか。

少々、過激な内容になってしまったが、いまの日本で建てられている住宅の中で、数寄屋造り、もしくは数寄屋風現代建築の割合はどれくらいなのだろう。先述したように、土地に余裕のあるところでなければ、建てたくても無理である。そして断熱の話に戻るなら、先人たちの知恵を引き継げない住宅は、それを補完するような温熱環境対策が必要になるはずだ。敷地も小さく、高さ方向が求められるのであれば、違う知恵が求められると思う。

床下が開放されている束基礎が次第に布基礎になり、いまでも床下換気用のささやかな通気口が設けられている事例も少なくない。また耐震性と地面からの湿気の問題があるため、べた基礎にする事例が極めて多くなっていると思われる。在来木造やツーバイフォー、軽量鉄骨、ALCなど、ありとあらゆる構法を目の当りにすれば、もはや郷愁に浸っている場合ではない。それぞれにふさわしい住環境を創造しよう。

断熱は、そのための一つの手法に過ぎないし、他にも大切なことはたくさんある。でも誰もが願う、夏を涼しく、冬を暖かく過ごせる環境を考えるとき、非常に重要な視点になるはずだ。そして数寄屋造りの現代住宅でも、決して例外ではないと思うのである。

加筆訂正:2011年7月8日(金)

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