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還流独歩

表現の差異 2011.07.11

国が違うと、いろいろな表現方法も異なる。例えば、良く引き合いに出されるのが、日本語の「白黒」に対して、英語では「黒白/Black and White」と表現することであろうか。その点、ドイツ語も英語と同じで「黒白」の順となる。他にも「あちこち」は「here and there」で、日本語とは順序が入れ違いになる。ドイツ語だと「hier und dort」というように、確かに「ここ」の方が先に来るようだ。もっとも「あち」と「こち」の距離感というのはやや微妙ではあるが、「これ」「それ」「あれ」の順で距離が離れると思うので、これもドイツ語と違うということにしよう。

ところで本題は、そういった順序の違いではなく、日常で使う単位を含んだ表現についてである。ドイツ語を習い始めたときに、教材に車のカタログが掲載されていて、格好や性能、燃費について議論したのを覚えている。日本では、「1リットルあたりの走行距離」を示すが、ドイツでは「100kmを走行したときの燃料消費量」で比較する。「15km/リットル」ではなく、「7リットル/100km」となる。理由は良くわからないが、日本の方が遥かにわかりやすい気がする。

次に、ドイツの学校の成績評価だが、6段階に分かれており、「1」が最も成績が良い。日本の現状は知らないが、5段階評価か、あるいは10段階評価で、当然のことながら、数字の大きい方が成績が良いのは全国共通だろう。それに対して、数字が小さい方が優秀というのは、どうも馴染めない。ただ、車の燃費の表現方法を見ればわかるように、数値が小さい方が優れていると考えれば、理にかなっているようにも思う。

他にもまだある。ドイツに来たときに新鮮だったのが、風速と雨量の表現の違いだった。日本では、風速は「毎秒」で表すが、ドイツは「毎時」である。日本で「毎秒、風速30m」というのは、ドイツでは「毎時、100km(正確には108km)」と表現する。どちらも単位が違うだけで、示している内容に違いはないが、どちらがわかりやすいかと訊かれれば、やはり慣れている「秒速」の方だろうか。ただ、ドイツの表現も捨て難い。

気象に関することだと雨量も違う。日本が時間当たり「mm」なのに対し、ドイツは「リットル」だ。つまり「1時間に1㎡あたり、20リットルの降雨が予想される」と言うのである。計算すればすぐ分かるが、「10mm/時」は「10リットル/㎡時」に相当する。日本が、降ったときの「高さ」を示すのに対し、ドイツは「量」で表現する。ただし、これはテレビやラジオなどの気象情報に用いられれるが、気象学の専門分野では、日本のように「mm」で表すのが正しいようである。

ちなみに、降雨量を「mm」で表す場合、雨はまんべんなく降ると考えられるから、単位に1㎡は不要である。つまり、1㎡でも10㎡でも1000㎡でも、例えば「1時間当たり10mmの降雨」は広さには関係なく、それらの大きさの器を置いておけば、1時間で10mmの高さまで溜ることになる。一方、「量」で示すときには、対象となる面積が必要になるから、単位を正確に表す場合、「1時間で1㎡あたり」としなければならない。

ということで、最後は細かな話になってしまったが、こういった日常生活に関連する単位を含んだ表現というのは、子供の頃から触れるものだから、どちらがわかりやすいかを考えるとき、育った環境によって捉え方が異なるのは当然のことだ。成績が「1」と聞けば、ドイツでは最高だし、日本では最低となる。「最大風速が時速200km」と聞いて、「秒速55m」とすぐに換算できる人は、暗算が得意な人以外、日本にはそう多くないはずだし、逆もまた然りだろう。

こういった表現方法の違いは、紛れもなく思考方法に関連していると思うのである。

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