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還流独歩

重量超過で大発汗 その2 2011.07.27

二階建て飛行機の搭乗口は遠い。前回もそう感じたが、初めて行くところは、そんな印象を受けるのかもしれないと思ったが、やはりそれなりの距離は十分にあることがわかった。出国審査を受けて、手荷物検査場に行くだけで荷物を背負った背中が汗だくになる。一体、何のためにこんな辛い思いをしなければならないのか納得がいかないが、私にもそれなりの非はあると思えば致し方ないということだろうか。世界中の女性を敵に回すつもりなど毛頭ないが、こういったときに決まりにうるさいのはどちらかというと、男性よりも女性ではないかと愚痴の一つも言いたくもなってしまう。失礼!

いつだったかも大変な目にあった。ミュンヘン空港からフランクフルト空港経由で日本へ帰国する人たちの視察に同行したときのことである。フランクフルトまではルフトハンザで、そこから先の帰国便は日本の航空会社だった。日本に帰るとはいえ、ミュンヘン−フランクフルト間はドイツの国内移動だから、預け荷物は20kgと決まっている。しかし、お土産をたくさん買った人たちのスーツケースは30kgくらいになっていた。それらがすべて拒否されて、中から荷物を出す羽目になったのだ。そのときも担当は女性だった。そして別の男性ところに密かに掛け合ったら、目配せをして許可してくれたのである。

そういえば、千歳空港でも同じ体験をしたことがある。国際線を乗り継いで帰省し、そこから東京に戻るときに重量超過料金を払わされたのだ。僅か1500円だったが、このときも頑として許してくれなかったのは女性の担当者だった。すべての女性が融通の利かない人だと主張するつもりなどない。搭乗手続きを行なったときの3番目の人のように、柔軟に対応してくれそうな人もたくさんいるはずだ。そもそも空港の搭乗手続きにいるのは大半が女性だから、女性を槍玉に挙げてしまうのは実に失礼だろう。これを読んで頂いている女性を不快な気持にさせてしまったとしたら、申し訳ないので、対応は人に寄るということで、お許しを頂きたいと思う。

額から溢れる汗が引いて、背中が濡れてしまったシャツが少し乾き始めたら、ようやく気持が落ち着いた。そしてもう搭乗時間である。出発前に確認しておいた通り、中央の4列席がすべて空いている。この上ない贅沢だ。そして今回、肉が入っていない菜食用の食事を初めて頼んでみた。出発前日までかと思うが、通常の食事以外のものをウェブ上で事前申告することができるのである。出て来たのは、ジャガイモと豆腐をトマトと野菜であえたものだった。他にも小さな野菜サラダとパン、そして果物がついている。あとはバターとパンに塗る植物性のパテのようなものがあった。味も決して悪くないし、それなりに満足である。

前回も書いた通り、ルフトハンザのA380の座席には電源がない。例えば肘掛けの先端についているのを見落としてしまったのかもしれないと思い、あちこち探してみたのだが、やはり見つからなかった。実際、機内で作業をするといっても、5、6時間が限度だから、エコノミーでは致し方ないのかもしれない。それよりも、こうして長距離を快適に移動させてくれることに感謝すべきなのだろう。いつものように機内で思いつくまま作業を始めて、そのついでにこの環流独歩を書き、ワインを飲んで仮眠を取ったら、東京への移動は意外とすぐに終わってしまうものである。

そういえば日本語の機内放送が気になった。ドイツ語と英語のアナウンスには気を止めなかっただが、おそらく日本の人向けに特別なことを言っているに違いない。例えば、「昼食の前に冷たいお飲みものを賜ります。コーヒー、紅茶などの温かい飲みものは、食事のあとに伺いますので、ご了承下さい」。確かそんなことを言ったと思う。それは正しい。コーヒーや紅茶、エスプレッソなどは、基本的に食事のあとに飲むものだ。そんな決まりを無視して、食前に飲むのがまったく許されないというわけではないが、日本風に例えれば、最初に味噌汁だけ飲むのと同じようなことだろうか。

蹴球(しゅうきゅう)の世界選手権で優勝した「なでしこ・ヤーパン」が一週間程前に乗ったであろう同じ飛行機は、定刻よりも少し遅れて成田空港に着いた。一か月半振りの東京の空気は、肩にのしかかる荷物と同じで、身体にまとわりついて重い。少し移動するだけで吹き出る汗を拭うと、アジアに戻って来たことを実感する。あたり前のことだが、ついさきほどまで、ドイツ人に囲まれていたのに、周りを見渡すと日本人ばかりになった。毎回思う不思議な感覚。予想通り暑いが、気持をより熱くして夏を乗り切ろうと思う。

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