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還流独歩

障子の断熱 2011.07.28

東京に着いた昨日は、午後から打合せが一つあり、夕方からは、建築会館で行なわれた某委員会に出席した。これまで2回とも欠席してしまっていたので、行くのは今回が初めてである。何名かの方は面識があるが、半分くらいの方はこれまでお会いしたことがなかった。数名の建築家の方が委員になっており、また海外での経験がある某大学の教員も来ていた。会議の中で紹介頂いた建築や、いろいろな議論が非常に勉強になり、やはりいろいろな方との情報交換というのは大切なことだと思う。

その中で興味深かったことはいくつもあるが、それは追って徐々に触れるとして、今回は障子の断熱について考えてみたい。薄い「障子紙」そのものには断熱性はほとんどないが、寒い冬に「障子」を閉めると、冷気の進入を防ぐことできるから、熱の移動を遮る効果が多少なりともあることは誰もが想像できることだろう。これは障子を閉めることによって、室内外間で生じる「対流」を防ぐことによる断熱手法の一つである。

それと同時に、障子紙の表面にできる空気層も断熱の役割を持つ。これは紙だけでなく、壁やガラス、あるいは人間の皮膚の表面など、あらゆる部材で同じ現象が起きる。つまり物体の表面には空気の膜が形成されるため、熱の移動が妨げられることを意味している。例えば、外気温が0℃くらいのときに、止っている車の窓から手を出すのと、走っているときに出すのとでは、後者の方が明らかに冷たく感じる。これは皮膚表面の空気膜が瞬時に失われるために体感温度が実際の気温に近づくからだ。

この空気の膜は内壁面では鉛直方向に移動することが多いが、障子には桟があるため、そこには縦方向の空気の流れをいくらかでも抑える効果が、実は隠されているのではないかという話題が会議の中で出た。つまり、障子紙一枚よりも障子の方が、熱を伝え難い可能性があるわけだ。障子の表面で生じる空気の流れを解析した人がいるのかどうかわからないが、ほんのわずかとはいえ、障子の桟が冷気の縦の動きを和らげていると考えることは、あながち間違っていない気もするのである。

これはあくまでも推測でしかないが、障子の桟の間で起きる小さな空気の溜まりと、障子全体が持つ大きな空気の膜が微妙に作用し合っていことも考えられる。無論、それによる断熱効果は壁などには到底及ばないが、障子というものを、日本建築が持つ特有の稼働式間仕切りや、あるいは自然の光を拡散させて柔らかに室内に導くといった機能だけに着目するのではなく、目に見えない断熱という視点で見直してみることで、新たな示唆が得られる可能性もあるのではないだろうか。

建築全体のデザインと比較すると、障子の断熱など、取るに足らない実に小さな話ではないかと思う。でも、そんなことを考えながら建築を観察することは、まさに建築環境学であり、その面白さの一つといえるのかもしれない。

加筆訂正:2011年8月21日(日)

走っている車から手を出したときの引用ですが、「身体にあたる風速が増すことによって、手の表面にある空気層だけでなく、皮膚表面の熱も奪われるため、その両方の作用によって、止っているときに比べると、より冷たく感じる」ということを補足しておきます。また、その他の例としては、高温のサウナに入ったときに、腕や手に息を吹きかけると、体表面にある空気の膜が失われるために、サウナの室温に近い暑い空気を感じることなども同様の現象の一つです。

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