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還流独歩

熱中症と間取り その1 2011.07.30

猛暑の影響なのか、熱中症になる人が毎年増え続けているようだ。統計までは調べ切れていないので、正確にはどのようになっているかまでは把握していないのだが、ここ数年、夏になると熱中症のことが大きく取り沙汰されているように見受けられる。その原因には、気温だけでなく、湿度も大いに関係しているという指摘もあるようだ。

でも、熱中症は、そもそも暑さや湿度だけが要因なのだろうかという素朴な疑問が私にはある。例えば東京都心の平均温度は、この100年で数度上昇したとも言われているが、その温度差に対して、人間の持つ機能が対応し切れなくなったとは思えないのだ。あるいは冷房設備が幅広く普及したことで、人間の暑さに耐える能力が落ちたというのだろうか。

冷房を頻繁に使う家庭では、子供の発汗能力に問題が出ているようなことも聞いている。もしこれが事実だとしたら、技術の進歩と快適性の追求によって、人間の生理機能が何か退化してしまうことになる。しかし、人間の根本的な部分はヒトとして進化して来た長い歴史の中で、何一つ変わってないらしい。もはやさまざまな見解が交錯している状況だ。

最近、日本建築について書き、昨日も夏の北海道という標題で考えたけれども、熱中症の原因には、現代建築のあり方が大きく関係しているのではないだろうか。例えば住宅では、いつの間にか、細かな間取りや、低い天井などによって構成される狭い空間が増えて来たように思う。室内の温熱環境と熱中症には大きな関係性があるような気がするのある。

もともと日本古来の住宅は、誰もが知っているように開放型が主であった。襖や障子を開けたり、あるいはそれらを外すことで壁のない広い空間が可能となる。それによって、大きな空気の動きや流れをつくることができた。厚い茅葺き屋根に見られるように、空間の上部をしっかり断熱しつつ、水平方向は壁をなくすことで大きな開放空間によって構成されていたのである。

ところで、建築環境学には形態係数という概念がある。これは6面で囲まれた空間の中にいる人間に対して、どの壁が、どの程度の割合で作用しているかを示す数値である。例えば、直方体の空間の中央に人がいる場合は、天井面の割合が0.2、床面のそれは0.3、壁4面はいずれも0.125といった割合になり、その合計値は1.0である。これらの値は温熱環境を考える上で、大きな示唆を与えてくれる。

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