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熱中症と間取り その2 2011.07.31

しかし、この形態係数を算出するためには非常に複雑な式を解かなければならず、通常の場合、いわゆる手計算で求めることは難しく、コンピュータによる数値解析が必要になるが、そこから得られた数値を用いることによって、壁から受ける放射温度を平均化して捉えることができる。それを実際の空間で測定する場合に用いられるのがグローブ球で、壁体からの平均放射温度が求められる。

形態係数の話は私にとっても平易ではないので深入りしない程度で割愛するが、恩師とのやり取りの中でわかったことは、形態係数だけでなく、人間の体表面積と、それを囲む壁との面積比も温熱環境に大きな影響を与えているのではないかということである。ヒトの体表面積は、おおよそ1.6㎡と言われている。あたり前のことだが、空間の内表面積が小さい場合、互いの比率の差は小さくなり、逆の場合は大きくなる。

例えば、天井高が2.4mの6畳間の内表面積は約50㎡である。それに対して、高さが同じ12畳間の内表面積は82㎡となる。ヒトの体表面積である1.6㎡を、いま求めた二つの数値で割ると、それぞれ「0.032」と「0.020」と求まる。この数値は、天井と床を含めた内壁1㎡あたりに対する、ヒトの面積の割合を示すから、6畳間よりも12畳間の方が、壁が人体に与える熱放射の影響が40%ほど小さくなることがわかる。

この単純な数値結果だけから、周壁の温度が熱中症に関係していると決めつけることはできないが、特に気温が高い夏の時期には、断熱性の悪い外壁や、狭い空間における内壁からの熱放射が、少なからずその原因の一つになっているのではないだろうか。他にも日射を適切に防いだり、通風を確保することも大切なのはもちろん、それが適度に行なわれている住空間は意外と少ないようにも思う。

冷暖房設備技術が進化すると、室内を効率良く涼しくしたり暖かくするためには、その容積が小さい方が望ましいと考えがちになる。換気も同様だ。設備技術の進歩が悪いと言いたいのではない。ただ、それによって特に大規模な建築の形態が大きく変わって来たことは確かであろう。そして住宅に目を向けると、空間を小さくすればするほど、それに伴って設備機器は増えて行く気がするのである。

今年も暑い夏を迎えた。例年に比べたら、少しはしのぎやすい日も多い気もするが、それでも冷房に頼らざるを得ない住環境は多いのではないだろうか。冷暖房設備の普及と生活様式の変化に伴って、日本古来のおおらかな間取りの良さが、いつの間にか消え去り、細分化された部屋が増えて来てしまった日本の住宅のあり方について考え直してみることも必要ではないかと思っている。

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