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還流独歩

開拓の村 その1 2011.08.01

昨日のことだが、北海道立野幌(のっぽろ)総合運動公園の中にある日本水泳連盟公認の50m競泳プールで2000m近く泳いだ後、「北海道開拓の村」を訪れた。ここには小学生か中学生の頃、少なくとも一度は来ているはずなのだが、まったく想い出せない。少し離れたところにある「北海道開拓記念館」には行った記憶はあるが、そちらと勘違いしていることも考えられる。それで調べてみたら、開村は1983年というので、おそらくここに来るのは初めてであることがわかった。郷里に帰って来たときに、訪れる時間はおそらく何度もあっただろうし、車で30分の程度のところにあるから、いつか行ってみようと思い続けていたのだが、夏の晴天に誘われて、ようやく足を延ばす機会を得た。

同村のサイトには、次のように書かれている。『北海道開拓の村は、明治から昭和初期にかけて建築された北海道各地の建造物を54.2haの敷地に移築復元・再現した野外博物館です。ここを訪れる人たちに、開拓当時の生活を体感的に理解してもらうことと、文化の流れを示す建造物を保存し、後世に永く伝えることを目的に1983年4月に開村しました。村全体が展示であり、夏は馬車鉄道、冬は馬そりが走ります。展示からは北海道の開拓にあたった人たちの知恵と努力を見ることができ、建造物一つ一つが当時へと導いてくれることでしょう』(引用終わり)。

そして見終わったあとの率直な感想をいうと期待以上に面白かった。夏晴れのもと、お昼を挟んで何も食べず、3時間半ほどかかりながら、ほぼすべての建物を見尽くした。移築されたり、復元されたりした建物の数が豊富だけでなく、市街地群、漁村群、農村群、山村群に分かれて配置されているのも、とてもわかりやすい。すべての建物ではないが、中に入ることもできるし、ところどころに見かける専門の案内係の方の説明も非常に興味深かった。何よりも、ここ一か月程、日本の民家について考えて来たから、実際にそれを確かめることができ、大いに参考になった。

ここでいつものように話は少し逸れるが、私は個人的な意見として、移築には疑問を感じている一人である。建築というのは樹木と同じで大地に根付いたものだ。樹齢何百年という保存指定を受けた大木は、そこに存在しているからこそ価値があるのであって、移植することなどあり得ないのと同じように、古い建築も同じ場所に建ち続けるべきではないかと思っている。そして建物の歴史は、その単体だけで築かれるものではない。一度、移築してしまうと、建築とともにそこに存在していた大切な何かが確実に失われてしまうに違いない。

その一方で、この開拓の村を見たら、建築を残すための移築という手法も一つの答えなのかもしれないと感じた。日本では都市計画の変更や、道路の拡幅による立ち退きなどに伴う解体を余儀なくされることがあるから、建築を単体で残すことに対して困難がつきまとうのは確かである。移築といっても、そもそもその価値があるような建物は少ないし、移築する先も簡単に見つかるとは思えない。だからこそ、建物をその場から取り去って、新しい場所に持って行くというのは残念ではあるが、致し方がないのかもしれない。そんな風に思う気持も少なからずある。

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