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天売・焼尻島への旅 その2 2011.08.04

天売港には出発してちょうど1時間後の12:40に着いた。高速船を降りると旅館の方が待ってくれていて、そのままバスに5分ほど揺られて宿に向かう。羽幌港の観光案内所の方は、先に手前の焼尻を散策してから天売島に行く方法もありますよ、と助言してくれたが、私のこれまでの経験では、まず遠いところから先に行くのを鉄則にしているので、今回も迷わずそれを踏襲した。この判断は、今回も結果的に良かったことが帰りに判明することになる。部屋に入ると、目の前に日本海が広がっており、いま通り過ぎて来たばかりの焼尻島が見える。

昼食は高速船に乗る前に済ませて来たので、部屋で少し休んでから天売島の散策に出かける。といっても小さな島だから、歩くところは海岸沿いがほとんどだが、島の中央部に鳥を身近に観察できる遊歩道もあるようだ。島自体は周囲が12kmで、その内側にある周回道路は10kmなので、ゆっくり歩いても3時間で回れるらしい。その程度の散歩など大したことなどないと思いつつ、水と長袖をリュックに入れて出かけた。歩き始めて10分もしないうちに汗が吹き出て来た。気温は26℃くらいだろうか。島だから風も強く、半袖では涼しいかと思ったが、まったく逆だった。

島を巡る道路には日陰がまったくない。目の前には太陽に照らし出された遥か遠くの灯台へ向かう緩やかな登り坂が続いている。あれはおそらく別の道だろうという都合の良い思いは、しばらく歩いているうちに現実となった。いくら夏とはいえ、島に降り注ぐ陽射しはきつく、とにかく暑い。天売・焼尻には何の予備知識も持たずに来たが、島だから、多少の起伏はあっても、それほどのことはないと思っていたのは間違いだった。赤岩展望台への道は予想外にもきつかった。ただ、熱射病になって歩けなくなるほどではないことは自分でもわかる。

それにしても、不思議なことに島なのに風がまったくない。照り返しの強い緩やかなアスファルト道を登り続けるうちに灯台が近づいて来た。宿からここまでわずか3kmほどだろうか。まだ50分も歩いていない。宿の近くでは工事の車が行き交ったりしていたが、集落を抜けてからは、車も自転車の観光客とも誰一人としてすれ違うことがない。目の前に広大な日本海が広がり、双子島である焼尻島がすぐ近くに見える。まさに地の果てにいるような不思議な光景である。そしてたどり着いた赤岩の展望台の下は、断崖絶壁という表現がふさわしい場所であった。そこを悠然と飛び交う無数の鳥たち。

言うまでもなく、天売島は海鳥の繁殖地で有名である。8種類の鳥が100万羽も生息しているらしい。オロロンと鳴くように聞こえるからその名がついた白黒の「ウミガラス/海烏」、くちばしが少し長い灰色の「ウミウ/海鵜」、地面に穴を掘って巣をつくる「ウトウ/善知鳥」などが代表的な鳥らしい。この赤岩にある展望台の下には、数えきれない程の巣穴がある。鳥なのに地中に穴を掘って住むとは、なかなか面白い生態だ。しかも親鳥は、餌を横取りするカモメ類や捕食者を避けるため、夜明け前に巣を飛び立ち、暗い時間帯になったら魚をくわえて戻って来る習性がある。

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