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還流独歩

日土小学校への旅 その4 2011.08.11

日土小学校の視察を終えてから、松山市内へ戻り、松村が手がけた「日産ショールーム」へ立寄る。大胆な庇を持つ建築だが、その特徴があまり活かされているようには見えないのが残念である。使い方さえもう少し工夫すれば格好よくまとまる気がするように思うというのは勝手な意見だろうか。そして初日の宿は、黒川紀章が手がけた「道後館」である。

二日目は朝7時出発。バスで高松に移動し、そこから貸切の船で「犬島/いぬじま」に渡る。建築学会賞とJIA日本建築大賞の二つを受賞した犬島アートプロジェクトの「精錬所」は規模は大きくないものの、明快な建築概念と内部の芸術作品が見事に呼応し合った絶妙な作品に仕上がっており、確かに見応えのある建築の一つだと思う。

そこから「豊島/てしま」へ移動する。今回の視察旅行は、一切の先入観を捨てるため、渡された分厚い資料はほとんど見ないようにしていた。その中でも実はあまり期待していなかった「豊島美術館」は予想を大きく覆し、館内で15分ほど寝そべっているうちに、しばし眠りに落ちてしまうという素晴らしい建築であった。

寝入ってしまうことが素晴らしかったのではなく、水の芸術に触れながら、横になったり、仰向けになって天井を見ていると、館内を響き合う会話が、宇宙から届く解読不能な信号のように耳に入って来きて、その妙な揺さぶりが眠りを誘うのである。失礼な表現になるが、中身がないように見えつつ、類い稀な概念が余すところなく凝縮されている本当に素敵な美術館であった。

そのあと高松に戻り、香川県庁、百十四銀行、香川県立体育館を巡って、二日目の宿に到着する。いずれの建築も渋い味を醸し出していた。ここでは母校を卒業した先輩たちが数名、多忙にもかかわらず、夕食場所に合流して頂いた。また一日案内をして頂いた同じく建築学科を出た先輩の話などをお聞きし、頷かせてもらうことが非常に多く、それも大変に勉強になった。

三日目はバスごとフェリーに乗り「直島/なおしま」へ行く。ここで、安藤忠雄のコンクリート建築三連発の洗礼を浴びる。ベネッセハウスミュージアム、李禹煥美術館、地中美術館の堅い建築を三つ見たら、それだけお腹が一杯になったが、いずれも空間の捉え方が絶妙で、芸術作品と巧みに絡み合う融合性には感心させられた。建築というのは、ときに「力」そのものだったりするのかもしれない。

そして最後に待っていたのが、「イサム・ノグチ庭園美術館」であった。ここで批評するなど、あまりにもおこがましいのだが、石という硬い素材を、実に柔らかく、そして大胆に仕上げるその表現技法が目の前に圧倒的な力となって存在している。芸術作品に疎い私でも、イサム・ノグチの作品に秘められた内面の力を感じずにはいられなかった。これは芸術を超えた、一人の人間の言霊のようにさえ見えたのが強い印象として残った。

松村正恒の日土小学校以外は、簡単な感想になってしまったが、久しぶりに日本の建築と芸術に浸ることができた気がする。そしてそれらが内面や精神へ少なからず何がしかの影響を与える余韻のようなものがまだ残っているのを感じている。建築というものは、その中に身を置くことがいかに大切かを、改めて思い知らされた気がするのである。建築は外部とつながっていなければならない。そう強く感じた次第である。

今回の視察でお世話になった皆様、どうも有難うございました。最後に、日土小学校を卒業し、東京の大学で建築を学んだあと、いくつかの事務所を経て、地元に戻って来られた二宮一平さんのサイトと、そこに掲載されている「夏の建築学校2011」を紹介させて頂くことで、甚だ簡単ではありますが、御礼とさせて頂きたいと思います。大きな感謝とともに、日土小学校をいつかまた訪れる機会があることを楽しみにしています。

▶ 二宮一平建築設計事務所

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