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還流独歩

爬虫類に学ぶ建築環境学 その1 2011.08.21

遅ればせの報告になるが、8月1日(月)に札幌にある円山動物園を訪れた。今年4月23日(土)から公開されている新しい「は虫類・両生類館」を訪れるためである。案内役として、札幌市立大学で教鞭を取る研究室の後輩が、多忙な中をわざわざ同行してくれるだけでなく、飼育員の方も現地で待っていてくれるという有難い待遇を受ける。

お二人とは、2008年の冬にドイツでお会いしていて、一緒にケルン動物園を訪問したことがある。飼育員の方とはそれ以来だから、3年振りになるだろうか。そのとき、ベルリンとフランクフルト、それからランダウという街にある動物園の方と電話連絡を取り、メール交換などをして彼らの視察の調整を少しだけ行なったことがある。

夏休みということもあって、子供たちや親子連れでにぎわう園内を抜けた先に現れた新しい「は虫類・両生類館」は、それらの動物から受ける印象とはまったく疎遠のコンクリート建築であった。大切なのは動物たちの環境だし、予算も限られているから、動物との関係を強調したデザインにする必要などないだろう。

入口を入ると、正面にガラス張りの「センターラボ」と呼ばれる空間が現れる。通常は裏側に隠れていて見えないことの多い飼育室を前面に出して来たのが特徴だ。ここで飼育員の方に久しぶりにお会いする。ドイツの視察のときのことを少し立ち話をしたあと、さっそく館内を案内してもらうことにした。

そして、最初に対面したのが、フランクフルト動物園から寄贈されたという4匹の「サイイグアナ」である。私がその動物園に電話をかけたことが、まさに最初のきっかけになったということで、案内の二人からいたく感謝された。目の前にいる動かない灰色のイグアナを見て、何だか嬉しいような、単に持ち上げられているような変な気分である。

ところで、爬虫類や両生類と聞くと、一般の人の中には毛嫌いする方も多いと思う。蛇が大好きだという人は少ないだろうし、先述のイグアナやカメレオン、あるいはトカゲの生態にとても興味があるという人も少数派であろう。もちろん私もその中の一人であるが、数年前に飼育員から聞かされた話でそれは一変した。

まず、爬虫類や両生類は、彼らに適した気候の中でしか生きることができない本当に弱い動物であるということだ。むしろその環境に生きて行けるように進化して来たのだ。蛇は生き物を丸呑みにするから、獰猛(どうもう)な印象を受けるかもしれないが、実はものすごく繊細で、少しでも環境が変わるとそれに適応できずに死んでしまうという。

動物園の飼育でも、爬虫類はかなりの神経を使うようだし、人工の環境を適切に維持するのも難しいらしい。あたり前のごとく、彼らは喋ることも鳴くことさえもできないから、与えられた飼育環境に合わないと、気がついたときには、まさに無言のまま命を失ってしまうのだ。それくらい敏感な生物であることを知ると彼らの生態が面白くなった。

蛇がなぜとぐろを巻くかというと、長い状態のままだと天敵に見つかりやすいので、小さくまとまっている方が周囲に対して敏感に反応ができるという理由だけでなく、威嚇のためでもあるらしい。しかも丸くなっている方が、環境との熱のやり取りを最小限に抑えられるからだという。じっとして動かない時間が多いのも、代謝量を抑えるためである。

カエルのような両生類は違うけれども、爬虫類で活発な動物は確かに少ない気がする。動物園に行くと、爬虫類がさかんに動いて、それを楽しませてくれるということはほとんどない。何のことはない、彼らは動きたくても動けないのだ。それは過酷な環境の中で適応するために進化の中で得て来た彼らなりの生き方であり、生態そのものである。

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