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還流独歩

爬虫類に学ぶ建築環境学 その2 2011.08.22

蛇の食事回数についても実に興味深い。獲物を得るのは週に数回くらいはあるのかと思っていたが、野生の蛇では、数年もの間、何も食べないこともあるという。餌にありつけるのは、いつになるかわからない。だから動かず無駄なエクセルギーを消費しない生き方をしているという。蛇は超低燃費な生き物なのだ。

爬虫類の中には、ワニのように強い陽射しのもとでも生きられる種類もいる。だからここの新館でも、入口を入った右手にあるワニの生育場所は自然光が降り注ぐようなつくりになっているが、それ以外の小さな爬虫類や両生類は、すべて人工照明によって照らされており、太陽光が直接あたるような環境では生きられないほど敏感だという。

館内のすべての裏側を見せて頂いた。温度、湿度、照度、換気など細やかな制御が行なわれているが、その手法はいずれも基礎的な設備技術を使いながら調整を行なっている。特に湿度調整には、水噴霧と換気が重要のようだ。動物たちは敏感だから、複雑な設備が求められるはずなのだが、それだと逆に過剰設備になり、制御も難しくなるらしい。

カメレオンには冷房が必要だし、低温高湿の制御にも二つの方法があるという。砂漠にいるカエルなどの飼育室の温熱環境の設定も難しい。理想の状態が保たれている部分と、そうではないところもあるようだが、単純な設備を使いつつ、それを適宜、アナログ的に制御する方法がどうやら理にかなっていることがわかった。

敏感な動物たちへの細やかな配慮について説明を受けながら、人間というほ乳類が、幾多の環境の変化に対し、柔軟に対応できたその能力に驚く。そして、じっとして動かないサイイグアナを見ると、動物的に人間とどちらが優秀なのかなどどうでも良くて、サイイグアナとして進化し続けて来たことに地球の神秘を感じるのである。

他にも、アオホソオオトカゲが、ケルン動物園で初めて繁殖に成功したという裏話も聞かせてもらった。確かに青くて細いのに大きいトカゲだった。そんな動物が目の前に存在していることが不思議である。彼らはほとんど動かなけれども、動物園という恵まれた環境の中で、彼らなりに懸命に生きているのだ。

飼育員の方によると、動物を見せる展示室のいくつかは、ドイツの事例を参考にしているという。ケルン動物園で視察した際に、実際に見たのと同じような内観を再現したというところも拝見したが、正直なところ、良くわからなかった。中にいる動物にとって、温熱環境と同じくらい大切な生態環境なのに、普段から、気に留めていないと、その違いはわからないものである。

地下にある餌となる昆虫やネズミを飼育している部屋も見せてもらう。すべてが食べられために生きている。けなげな小さな白ネズミも、いずれ地上階の動物たちの胃袋に納まるのだ。可哀想だが仕方がない。人間にしてみれば、肉となって供給される豚や肉牛、鶏などもまったく同じことだ。生命は食物連鎖の上に成り立っている。

最後に地下の広い機械室で、しばしの間、建設にかかわる話を聞かせてもらった。詳しい内容はお伝えできないが、換気というものがとても難しいということがわかったという。設備設計を行なっていたものの一人として、換気計画というのは侮ってはいけないものなのだ。いろいろな苦労話を聞きながら、頷かせてもらうことも多かった。

加筆訂正:2011年8月24日(水)

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