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還流独歩

昭和な家 その2 2011.09.12

話は逸れたが、この中古住宅は、そんな昭和時代を、ふと想い出させてくれる雰囲気を持っている。もっとくだけた表現を使わせてもらえるなら、昭和時代を引きずったままの家なのだ。予算の問題もあるとは思うが、これを建て替えすることなく、改修して使い続けることを選択した同期には、少し大袈裟になるが敬意を表したいとさえ思う。

少し壊れかけた濡れ縁、擦り切れた茶色い畳が敷き詰められた古い和室、収納扉の裏に残る子供のいたずら書き、いまではなかなか見ることのできないしびれる色を使ったタイル貼りの浴室、その中にほどなく埋込まれたステンレスの小さな浴槽、立て付けの悪い雨戸など、時代を経た多くの記録がここにはまだそのまま残されている。

人というのは年月とともに、郷愁に浸りたくなるのであろうか。ノスタルジーということばのように、昔を想い出して、懐かしい気持になるものだろうか。そして、その古き良き時代に戻りたいと思うものであろうか。あたり前のことだが、それは人によって受け止め方が違うに決まっているから、そんなことを感じない人もいるはずだ。

ここで言いたいことは、時代を携えた空間が持つ落ち着いた雰囲気の中に身を委ねることは、決して哀愁を感じたいからではなく、そこからことばでは表せない安心感やゆとりといったものが得られるのではないかということだ。その方が大切に感じられるし、それはまた物質的な豊かさではなく、目に見えない精神的なやすらきのようなもののはずだ。

普通であれば、こういった住宅はすぐにでも取り壊されて、産業廃棄物になってしまう運命を辿るであろう。築30年を過ぎた住宅に何の価値も見い出すことができないし、実際に改修して住むには老朽化が激しい物件も多いから、多くの住宅が解体されてしかるべきなのかとも思う。そんな住宅は日本中に山ほどあるに違いない。

以前にもどこかで書いたかもしれないが、国土交通省の統計資料をもとに調べたところ、10年前の2000年の段階で、日本には4500万棟の住宅があった。そのうち、戦前に建てられた住宅は約140万棟で、全体の3%に過ぎない。戦後の1945年から1980年の35年間に建設された住宅は約2,000万棟あり、その割合は43%である。

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