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還流独歩

昭和な家 その3 2011.09.13

そして、1981年から2000年の間に2,400万棟が建設され、2000年の段階で54%を占めている。つまり2010年を過ぎた現時点では、築30年以下の住宅の割合は、6割を超えているのではないかと予想される。言い換えれば、1945年から1980年の間に建てられた約2,000万棟の住宅の多くは、これから取り壊されて行く可能性を大いにはらんでいることになる。

年間に100万棟の家が建てられる日本において、築30年以上の住宅が2,000万棟あるということは、あと20年間は建て替えが続くことを意味する。前にも書いたと思うけれど、30年後に解体されるのであれば、極端な話、最後の10年はゴミの中に住んでいるのと同じではないだろうか。これはもはや冗談では済まされない極めて重大な問題だと思う。

そんな状況の中、解体を免れた住まいの一つが、この昭和の中古住宅である。この住宅の改修は、ある建築家が関わっているので、どのように変わるかについては、まだ詳しくはわからないけれども、普通であれば、あえなく更地になってしまうところを救われたのだ。だから中古住宅ではなく、再生住宅であり、これは住宅の再生でもある。

何度も書いたように、日本では土地の値段が高いから、その上にある建築は付帯設備のようなものと考えられている向きがある。それは日本では致し方がないと片付けられてしまうことが多いし、それもやむを得ないとも感じている。でも、丁寧につくられた住宅は素敵な空間へと蘇る可能性を十分に持っている。それを活かしていないだけだ。

建物の改修のことをドイツ語では「Revitalisierung/レヴィタリズィールング」と言うことがある。ラテン語に詳しい人なら説明しなくてもすぐに分かると思うが、「Re」は「再生」、「Vita」は「生命」を示すから、このことばは「命を再び吹き込ませる」ことを意味している。ラテン語とドイツ語の複合語だが、とても素敵な表現だと思う。

日本でも、住宅の改修や古いビルの再生などが注目を集め始めて10年以上になるだろうか。そういった動きは、以前に比べると大きくなっては来たが、それでも簡単に取り壊されて行く建物は、相変わらず後を絶たない。それだけでは建築業界は潤わないのかもしれないが、昭和を感じさせる住宅の一つが生き残ったことは素直に嬉しいことである。

いろいろな事情で、一期工事と二期工事に分けて改修するというので、年内に一度行ってみたいと思っている。

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