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還流独歩

お婆ちゃんの食器棚 2011.10.12

友人の友人が結婚して、新居に引越したというので、遊びに行ったことがあった。もう何年も前のことである。その共通の友人を介して何度か会った程度の仲だったが、誘われたのでお邪魔することにした。行ってみると、そこの台所には、目が痛くなるような橙色に塗られた食器棚が置いてあった。べったりとオレンジ色に塗り尽くされたその食器棚は、友人の中の誰かの祖母が使っていたもので、確か80年くらいの年季ものらしい。

何人かの友人たちが、ヤスリをかけ直し、壊れかかったところも修理して、そして最後に橙色に塗り上げた食器棚は、みんなからの結婚祝いとなった。写真を撮り忘れたので、おぼろげにしか想い出せないが、確か日本でも昔に良く見かけた素朴な感じの食器棚だったと思う。それに手を入れ直し、使い続けるという場面に遭遇した私は、素直に素敵だなあと感じた。普通なら粗大ゴミになるような食器棚が生まれ変わったのである。

おそらく、その祖母はもう生きていないからこそ、新婚家庭の食器棚として再利用されたのだけれども、お婆ちゃんが大切に使っていたであろう古い家具が、こうして派手に塗られてしまったとはいえ、奇麗に蘇った姿を見ると、保存とか再生というものが、ドイツではごく身近に存在していることを改めて感じることができた。古いものがすべて悪いわけではない。そこに価値を見いだすかどうかだけのことなのだ。

お婆ちゃんは亡くなったけれど、これはまさに、今年の夏に愛媛県八幡浜市の日土(ひづち)小学校を訪れたときに地元の人から聞いたことばである「あり続けるものを通じて、過去と未来がつながる」ことであり、私が感じた「過去を引き連れて未来へと続いて行く」ことの一つなのだと強く思うのである。

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