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第二回 北方型住宅賞に寄せて その2 2011.11.15

建築主と設計者の発言から、互いの思いが結実したという確固たる信念のようなものが感じられる。安心して暮らせる場所として十勝を選び、そこに移りこんだという建築主だからこそ、自分なりの暮らし方はどうあるべきかを具体的に思い浮かべることができたのだと思う。妻がいる場所を考え、機械だけに頼らずに薪ストーブを使う。そして、家というのは建てたら終わりではないと言い切れるところが素敵だ。だから最初は外構には何も手をつけなかったという。

今年始めた家庭菜園では、鉛筆みたいな細い人参ができてしまい、野菜をつくることの難しさを知ったり、家の周りで作付けされているトウモロコシが、日々、急速に育つのを子供たちと一緒に観察することで、農業という営みを深く感じたとも語ってくれた。また訪れる知人たちは、風除室がないことに驚いたり、薪ストーブの威力のお陰で、火を焚いていないのに家の中が暖かいことに感心したりするという。建築主の最初は不安は、いまや完全に払拭された。

設計者の発言は、先述した内容と重複するが、簡潔にまとめると次のようになる。「先入観を持たずに、基本設計には半年をかけた。最初は図面を作成しないまま雑談することが多かった。設計とは、建築主の要望を噛み砕いて翻訳する作業に他ならない。今回は幸いにも、建築主が理想の暮らし方を、かなり明確に思い描けていたため、設計側からの投げかけと、それに対する回答がのやり取りがうまく進んだ」。

「暮らし方をどうするかの方が大きな課題で、平面計画は後回しだった。その中で、最近は北方型住宅を意識することが多い。設計とは会話であり、北方型住宅の長所の一つはコミュニケーションが取れることではないか。それが、より高い住文化を目指すことにつながる。また、それによって多様性が生まれることが重要であり、数字だけに偏らない柔らかさも大切ではないかと考える」。私もこの設計者の意見にまさに同感である。

この座談会は、議題をいくつかに分けて、それぞれの立場で意見や感想を述べるのだが、審査委員長の発言をまとめると次のようになる。「北方型住宅は断熱や気密といった外壁の仕様だけで決まるものではない。断熱性が高まり、家の中が暖かくなっても、家族の関係が冷たくては意味がない。家族の一体感が大切であり、最優秀賞の住宅にはそれが見える。北方型住宅は完成品ではない。多様な域へと昇華すべき可能性を持っている」。

また女性の審査員の方の発言も極めて示唆に飛んでいる。「女性の視点から、家事動線に着目した。家を建てるということは、住まい手に責任が生まれると同時に、住まい力が求められる。それがとても大切ではないか。受賞した作品には、家の空気感が図面と写真に現れている。北方型住宅は一つのブランドになる。その一方で、建設費用が高いというお金がかかるという疑問も持たれるが、竣工後は光熱費を継続して支払わなければならない」。

加筆訂正:2011年12月5日(月)

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