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機内貧血注意報 その2 2011.11.23

何だか映画を見ているような一瞬の出来事だったが、幸いにも大きな騒ぎにはならずに済んだ。おそらく1、2分程度のことだったと思う。彼女を後ろから抱きかかえた乗務員が英語で話しかけるのだが、どうも状況が良くわかっていないようだ。私が「日本語ですか?」と問いかけると、「はい」という返事が返って来た。表情は明るく、問題なさそうに見えた。

対応した乗務員は、離発着のときに使用する専用の椅子に彼女を座らせ、足を伸ばせるようにと、どこからかすぐに台を持って来た。一体、何が起きているのか状況がつかめないままのその女性のそばを私は一旦離れて、少し間を置いてから話しかけた。彼女は大学生くらいだろうか。あるいは20代前半に見える。

彼女に少し訊いてみたところ、食事のときに一緒にお酒を飲んだら少し気持が悪くなったので、お手洗いの前まで来たと言う。おそらくそこで軽い貧血を起こしたのだろう。ともかく意識も戻ったし、顔色も良くなったようなので、座ったままの彼女と、乗務員の三人で、さらに少し話した。

ドイツ人の客室乗務員は、彼女に水と甘いお菓子を渡しながら、こういうことは機内では意外と良くあることだと説明してくれた。機内は気圧も湿度も低く、また席によってはお手洗いに行くにも気を使うので、水分を十分に取らないことが多く、また糖分不足によって、急に立ち上がったときに気を失ってしまうことがあるらしい。

人間の身体は重いから、倒れ込むときに頭を打ったり、顔をどこかにぶつけたりしてしまうこともあるというから、打ち所が悪ければ、大怪我をしてしまうことだってあり得るだろう。だから意識を失ったときに、後ろから抱え込むようにして支えてもらえたのは運が良かったのだ。また大事に至らなくて本当に良かった。

そんな予想外のことが起きたが、それ以外は実に順調だった。アジア系の菜食系の食事も美味しかったし、倒れた女性を助けた乗務員からは、御礼のことばを頂いただけでなく、エコノミークラスの下には仮眠室があって、通常は、そこで2時間程度の仮眠を取っているということも教えてもらうことができた。

空港内で受け取ることにした荷物もすぐに出て来たし、長距離新幹線駅での新幹線への乗り継ぎも、わずか10分程度で、最短時間で乗車できた。ケルン中央駅前にある停留所に行くと、これまたすぐにバスがやって来た。こんなに調子の良い移動は初めてかもしれない。心地良い疲労感が残る気持の良い移動であった。感謝である。

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