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還流独歩

別れは短く出会いは長く その2 2011.12.02

部屋には低い角度から冬の陽射しが差し込んでいる。南面の窓ガラスの汚れが気になるので、拭き掃除をすることにした。窓の内側も少し汚れいてる。新聞紙を持って来てもらい、空の塗料の容器にお湯を入れ、新聞を濡らして拭き始める。窓ガラスは固いから、汚れが簡単に落ちそうに見えるのだが、なかなか手強い。お湯拭きをもっと丁寧にしたいのだが、内開きだから、水分を含めすぎると床に汚い水が落ちてしまうので、多少の手加減が必要になる。それでもかなり奇麗になった。

良く言われるように、晴れの日は乾燥しているため、窓拭きには適さないらしい。確かに今日は晴れていて、しかも真正面から陽射しが当るので、拭いてもすぐに乾いてしまい、内側から見ると拭き残しがすぐにわかってしまう。それを見つけては拭き取るのだが、これがなかなか落ちないのだ。少し湿らせた新聞紙で、何度も拭いては内側から確認し、また拭き直す作業をしていたら汗が吹き出て来てしまった。しかも腕がだるい。ただ、奇麗になった窓を見ると気持がいい。

壁塗りも含めると、5時間近く作業しただろうか。部屋の引渡は翌日のお昼ということなので、残りの作業などは一人で出来るだろう。陽も傾いて来たので帰ることにする。これで友人とは、しばしの別れになる。外にゴミを持って出て来た彼と、またいつか会おうと言い合っただけの簡単な挨拶だった。話し始めたら長くなるし、それこそ「別れは短く出会いは長く」なのだ。彼から、ケルンを離れると聞いたときには珍しく感傷的になったが、今日はそうでもなかった。

今回、ケルンを離れることにしたのは、田舎で設計事務所を開くことにしたからだという。今年の夏まで約4年近く、フランクフルト近郊の事務所で働いてきた彼は、週末はケルンの自宅に戻る生活を続けて来たが、先月、その仕事を辞めたのをきっかけに、二重生活を解消しようと決めたと教えてくれた。ここ数年は、年に会うのも数回に減っていたとはいえ、貴重な友人がケルンからいなくなるのは寂しいことである。

それにしても、彼とは長い付き合いになったものだ。ケルン工科大学で知り合い、ことあるごとに飲みに行き、コンサートにも一緒に足を運んだ。そういえば、イタリアへ建築研修旅行に行ったときは同室だった。バイクの後ろに乗せてもらってツーリングに出かけたこともあるし、暑い夏の日に、ケルン郊外の湖に泳ぎに行ったこともあった。カーニバルで大騒ぎしたことも何度かある。何にも増して、エネクスレインという名前に決めたのも彼が賛成してくれたからだった。

地下鉄の駅へ向かう道を歩きながら、そんなことをいくつも想い出した。だからといって特に切ない気持になったわけでもなく、何というかうまく気持が整理できない感情が心の中にうごめいている。でも、ケルンを離れるという決断は彼の人生であって、私のではない。むしろ、遊びに行ける街が一つ増えたと気軽に考えれば良いのだろう。次回、会えるのは、いつになるかわからないけれど、そんな機会は必ずやって来るはずだ。

彼の故郷での新たな人生を陰ながら応援しつつ、自分もまた前向きに進んで行きたいと思っている。

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